ピケティの法則「r>g」を事業経営者の視点で考えてみるとS&P500より収益を挙げられるかどうか

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ピケティの法則「21世紀の資本」という本で有名になった「ピケティの法則」。ピケティの法則は「r>g」という公式で表されます。この式が表しているのは
r: 資本の収益率(株式など金融資産や不動産その他の資産からの収益)
g: 経済成長率(国の経済全体の成長を表す、GDPのこと)
という2つの指標が不等号で表されていることです。
つまり、株式などの金融資産の収益率のほうが、国全体の経済成長率よりも大きいという分析です。

ピケティの法則「r>g」

経済学者トマ・ピケティが提唱した経済理論

ピケティの法則は、経済学者トマ・ピケティが提唱した経済理論で、彼の主要な著作である『21世紀の資本』において詳述されています。

ピケティの法則
r>g

この法則は、資本の収益率(r)が経済成長率(g)を上回る傾向があるというものです。つまり、「であるとき、資産所得は労働所得よりも速く成長し、結果として経済的不平等が拡大する傾向にあるというのがその核心です。

ピケティは、長期的なデータ分析を通じて、この関係が歴史的にも現代においても観察されると主張しています。彼は、この法則に基づき、経済的不平等の増加が自然かつ組織的なものであると論じ、その対策として資本への課税強化などの政策を提案しています。

ピケティの理論は広範な議論を引き起こし、経済学の分野だけでなく、政治学、社会学、歴史学など多くの分野で注目を集めました。経済的不平等の根本原因と解決策についての理解を深めるためには非常に重要な視点です。

仮に手元に1億円あったら10年後いくらになるか?

仮に1億円が自身の手元にあったとしたら、自分で事業を起こして経営者になるか、または金融資産に投資するのがいいか。どちらがいいでしょうか?

事業に投資して自分が経営する場合と、S&P 500のようなインデックスファンドに投資する場合の10年後の収益を予想してみます。前提として、以下のように仮定しました。

  1. 事業投資のケース:Gとします
    年間成長率を仮定する必要がありますが、これは業種、運営の効率、市場の状況などに大きく左右されます。保守的な見積もりとして、年間5%の成長率を想定しました。これは多くの中小企業やスタートアップが経験する成長率よりも低いかもしれませんが、リスクも考慮に入れた平均的な数値として設定します。
  2. インデックスファンド投資のケース:Rとします
    S&P 500の長期的な平均収益率は歴史的に約7%(インフレ調整後)とされています。ここでは、インフレ調整を考慮せず、名目収益率として年間7%の収益増加と想定しました。これにより市場の平均的な収益性を反映した計算が可能になります。

これらの仮定を基に、1億円をそれぞれのケースで投資した場合の10年後の収益を計算してみましょう。利息の再投資、事業成長による再投資を考慮した複利計算を行います。

10年後の予想収益は以下のとおりでした

計算式は次のとおりです。

最終資産=初期投資額×(1+年間成長率)投資年数

  • G:事業投資のケースでは、約1億6289万円になります。
  • R:インデックスファンド投資(S&P 500など)のケースでは、約1億9671万円になります。

つまり

R:1億9671万円 > G:1億6289万円

となりました。

事業経営をした場合は資産価値が6289万円増加していますが、インデックスファンドに投資をした場合は9671万円と、約1億円増加しています。

まったくピケティの法則のとおりの計算結果ですね。

投資家としてはどっちを選ぶべきでしょうか?

この計算はあくまで一般的な仮定に基づいたものであり、実際の収益は投資する事業の種類、経営の質、市場環境、そして金融市場の変動に大きく依存します。

事業投資の場合、より高いリスクと管理が必要です。この試算よりも高いリターンを得る可能性もありますが、倒産し一文無しになる可能性もあります。

上記の試算をふまえると、事業投資して経営するのなら10年後に金融資産が2倍以上になるような事業計画でないとおもしろくないですね。原価の経営環境ではかなりハードルが高いかもしれません。

一方で、インデックスファンドへの投資は相対的に低リスクであり、市場平均の収益を目指す戦略です。また、この投資は寝ていても勝手に収益を生み出すので、汗水たらして働く必要がありません。

つまり、投資家としては自分で汗水たらして働く事業経営者になるよりも、寝ててもお金が増える金融資産に投資しておいたほうがよい、という選択をする可能性が高いです。

経営者としてはどう考えるか

仮に10年後の金融資産の増減だけで考えるならば、高いリスクをおかしてまで経営する必要はない。そう考える現代人は多いと思います。

ですが、それほど単純な問題ではありません。

経営者はなんのために事業を行うのか?という視点でも検討する必要があります。

以下のポイントはその判断を行う際に役立つかもしれません。

  1. 収益性とリスク
    • インデックスファンドは一般的に市場平均のリターンを提供し、低リスクで予測可能です。
    • 自らの事業に投資することは、より高いリターンを得る可能性がある一方で、失敗するリスクも高まります。
  2. コントロールと影響力
    • 事業経営者は自身のビジネスに対するコントロールを保持し、その方向性や成長に直接的な影響を与えることができます。
    • 一方で、インデックスファンドに投資すると、市場全体の動向によって結果が左右されます。
  3. 事業への情熱とビジョン
    • 事業を運営することは単なる金銭的なリターン以上の価値を持つことが多く、個人の情熱や目指すビジョンの実現に繋がります。
    • 自身の事業に投資することは、社会に対するポジティブな影響を与えることも可能です。
  4. 多様化と投資のバランス
    • 資本を分散して投資することでリスクを軽減し、様々な資産からリターンを得ることができます。
    • すべてを一つの事業に集中することは大きなリスクを伴いますが、同時に大きな成功をもたらすこともあります。
  5. 社会的・経済的影響の理解
    • 経済的な不平等や資本の集中に対する理解は、自らの事業や投資が社会に及ぼす影響を考慮する上で重要です。
    • 事業経営者として、自社の事業を通じて経済成長に寄与し、社会的な価値を創造することも可能です。

生きがいと自己実現

多くの人にとって、「生きがい」や「自己実現」というのは仕事を通じて達成されるものです。

事業経営は自身のビジョンを実現し、創造的なアイデアを形にし、自らの価値観を組織文化や事業活動に反映させることができるため、非常に充実した経路であると言えます。

経営者になることの利点は以下のようなものがあります。

  • 自由度:自分自身の決定に基づいて会社を運営できる自由があります。
  • 影響力:自分の事業を通じて社会にポジティブな影響を与えることができます。
  • 学習と成長:事業を運営する過程で多くのスキルを学び、個人的な成長を経験できます。
  • 創造性:新しいアイデアや製品、サービスを創出し、市場に導入することができます。
  • 経済的報酬:成功すれば、金銭的な報酬として大きなリターンを得ることが可能です。
  • 達成感:目標を設定し、それを達成することで得られる充実感や満足感は計り知れません。

事業経営は不確実性が高く、ストレスや失敗のリスクも伴います。経営者として成功するためには、ビジョン、リーダーシップ、適応性、耐久性、そして何よりも情熱が必要です。

それぞれの人にとって「生きがい」や「自己実現」の意味は異なるため、経営者としてこれらを追求することが自分にとって正しい道かどうかは、おのおの価値観によって異なりますが、経営者にならないと実感できないこともたくさんあります。