今年の中小企業診断士の理論政策更新研修は、福井県の会場に参加しました。会場は福井商工会議所です。
石川県ではなく福井県の開催を選んだのは、日程の都合もありましたが、何より研修内容に魅力を感じたからです。今回は、企業の経営者による事例発表が3社もありました。

3社ともすばらしい発表で、「福井まで来てよかった」と感じる研修でした。なかでも、事前から注目していた株式会社農園たやの田谷徹社長のお話は、期待以上でした。
テーマは外国人材の受け入れと農作業の生産性向上。その取り組みを支えていたのが、経営者自身によるデジタル化でした。
経営者の実践から学べる、3社の事例発表

今回の研修では、福井県の経済情勢や新たな経済プランに関する講義に続いて、次の3社から事例発表がありました。
| 事例企業 | 講演テーマ |
|---|---|
| 株式会社農園たや | 外国人材の受入と 農作業の生産性向上 |
| 株式会社清風荘 | 生産性向上で 日本一給料の高い旅館を目指す |
| 株式会社HAQTSUYA (大津屋) |
業態開発、 事業転換の歴史と今 |
農業、旅館、業態開発・事業転換と、異なる切り口から経営の実践を学べる構成です。経営者ご本人から取り組みを直接聞けることは、こうした研修の大きな魅力だと思います。
今回は、そのなかから特に印象に残った農園たやの取り組みをご紹介します。
外国人材の受け入れを、働く環境の見直しにつなげる
農園たやは、福井市でベビーリーフなどの野菜を生産する農業法人です。第55回日本農業賞では、個別経営の部の大賞を受賞されています。JAグループの受賞者紹介
田谷社長は、青年海外協力隊としてインドネシアに派遣された経験をお持ちです。講演では、その経験から農業経営、インドネシア人材の受け入れや育成へとつながっていった経緯が紹介されました。
お話を聞いて感じたのは、外国人材の能力を生かすために、受け入れる側の仕事の進め方を丁寧に見直していることです。
たとえば、作業を説明して「分かりました」と返事があっても、説明した側と聞いた側で、頭に描いている作業が同じとは限りません。これは外国人材に限らず、日本人同士でも起こることです。
農園たやでは、業務で使う用語を統一し、作業を分かりやすく整理し、動画や紙のマニュアルを整備しているとのことでした。言葉だけに頼らず、同じ作業イメージを持てるようにする。こうした工夫が、人材の活躍を支える土台になっていました。
社長自らGoogle Workspaceを使いこなし、アプリをつくる
私が特に引き込まれたのは、田谷社長自身がGoogle Workspaceを使いこなし、業務のアプリ化を進めているというお話です。
Google Workspaceは、メールやカレンダー、ファイル共有などを仕事で使うためのGoogleのサービスです。農園たやでは、こうした身近な道具とAIを組み合わせ、現場に必要な仕組みをつくっていました。
講演では、出荷表や作業予定・報告の共有、Googleカレンダーの活用、運転免許の学習を支援するアプリなどが紹介されました。学習用アプリには、回答の確認やランキングの機能もあるそうです。
質疑応答では、半年ほど前からAIを活用し、簡単なコードを作成して、不具合を修正しながらアプリをつくっているとの説明がありました。
現場で何に困っているかを知る経営者が、自分で手を動かし、使いながら改善していく。その実践がとても印象的でした。Google Workspaceや生成AIを活用した同社の取り組みは、ふくいDX事例集でも紹介されています。
デジタル化の目的が、「便利な道具を導入すること」で終わっていません。仕事を分かりやすくし、スタッフが自分で判断して動けるようにするために使われている点に、経営上の意味を感じました。
改善報告をAIで整理し、現場の学びに変える
講演時点で、業務の改善報告は約270件集まっているとのことでした。
その内容をAIで分析して月ごとの問題点を抽出し、朝礼や研修で共有する。優れた改善には、3万円の社長賞を設けているというお話もありました。
現場から寄せられた気づきを記録し、整理し、みんなで学び、次の改善につなげる。そこまでの流れができていることに感心しました。
また、ハウスごとの作業状況を見えるようにして、次に必要な仕事を把握しやすくする工夫も紹介されました。作業時間を測り、日本人と外国人が一緒に改善を考える取り組みも進められています。
「次に何をすればよいか分からない」という状態を減らすには、仕事の進み具合や優先順位を共有することが大切です。指示を待ってしまう背景に、判断に必要な情報が届いていないという問題はないか。支援する側としても、改めて考えさせられました。
仕事に加えて、暮らしと将来も支える
もう一つ心に残ったのは、外国人材の暮らしや将来まで見据えていることです。
講演では、車両の貸与や運転免許取得の支援、来日前のビジネスプラン作成、相談体制の整備、働きながら大学で学ぶための支援などが紹介されました。
車での移動が生活に関わる北陸では、通勤だけでなく、買い物や休日の過ごし方も働き続けるうえで大切です。また、日本で働く経験が、その人の将来にどうつながるかという視点も欠かせません。
働く人の成長や生活への配慮と、会社の生産性向上が一緒に考えられている。その姿勢が、農園たやの取り組みの根底にあるように感じました。
石川県の中小企業支援にも生かしたい学び
今回の事例は、石川県の中小企業にも参考になる内容でした。
仕事の呼び方をそろえる。作業手順を動画にする。予定や進み具合を共有する。日報に残った気づきを整理して、改善につなげる。農業以外の製造業、飲食業、サービス業でも、自社に置き換えて考えられることがいくつもあります。
まずは、現場で繰り返し起きている困りごとを一つ選び、小さく仕組みをつくってみる。今回の講演は、そんな一歩を後押ししてくれる内容でした。
特に、田谷社長が自らGoogle WorkspaceやAIを活用していた姿には、大きな刺激を受けました。デジタル化と人材育成を結びつけ、働く人が力を発揮できる環境を整える。この視点を、私自身の中小企業支援にも生かしていきたいと思います。
3社の発表を聞くために福井へ足を運んで、本当によかったです。登壇された皆さま、研修を運営された皆さま、ありがとうございました。

この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
民民での直接契約を中心としていますが、商工三団体などの支援機関が主催するセミナー講師を年間数十回担当したり、支援機関の専門家派遣や中小企業基盤整備機構の経営窓口相談に対応したりもしています。
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