「心理的安全性」を確立するためには、組織の中で個人がバリアなしに発言や交流ができる環境を整備する必要があります

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心理的安全性最近、ビジネスにおいても組織文化の重要性が語られるようになってきました。なかでも「心理的安全性」が高い組織は社員のモチベーションが高くイノベーションが起きやすく組織の生産性が非常に高いということがわかってきました。
あらためて「心理的安全性」とは、なんなのか。そして、中小企業が「心理的安全性」に取り組むうえでの課題や解決策についてまとめてみました。

心理的安全性

心理的安全性とはなにか


「心理的安全性」とは、組織に属する個人がその組織のなかでは大丈夫と思えることです。自らの意見や質問、懸念、失敗を公にすることで、否定的な評価や罰、拒絶、軽蔑などのリスクを感じない状態を指します。簡単に言うと、「自分の考えや気持ちをオープンに表現しても大丈夫」と感じることができる環境や文化のことです。

心理的安全性が高い組織やチームでは、以下のような特徴が見られます

・メンバー間での信頼感が強い
・新しいアイディアや提案が活発に行われる
・失敗が隠されることなく共有され、それを学びの機会としてとらえる
・争いや対立があっても、それは個人への攻撃ではなく、アイディアや意見の議論として行われる

このような環境は、従業員のモチベーションの向上、チームの協力の促進、イノベーションの加速など、多くのポジティブな効果を生み出すことが知られています。

心理的安全性が高いことで成果を出している事例企業

心理的安全性を重視し、その結果として成果を上げている企業は多数存在します。以下はそのような事例をいくつか挙げます。

Google(グーグル) – 2012年にGoogleは「Project Aristotle」という研究を開始し、どのような要因が「最高のチーム」を形成するのかを調査しました。この研究で最も顕著だった結果は、最も成功しているチームは「心理的安全性」が高いことでした。Googleはその後、組織全体で心理的安全性を高める取り組みを進めています。

Pixar(ピクサー) – 映画制作会社のPixarは、心理的安全性を確保する文化を維持し続けています。共同創設者のEd Catmullは、失敗を許容する環境を作ることでクリエイティビティを促進することの重要性をしばしば強調しています。

上記の2社は、あまりにも有名な事例ですが、アメリカの企業なので、ピンとこないという方もいるかもしれません。
日本でも心理的安全性に取り組んでいる企業が増えています。その一部を紹介します。

リクルートグループ – 企業文化として「挑戦」と「透明性」を重視しており、失敗からの学びや新しいアイデアの提案を奨励しています。その結果として、多様な背景を持つ人材が安心して働ける環境が整っていると言われています。

ヤマハ発動機 – ヤマハ発動機では、組織を横断してのアイデアの共有や多様性の尊重が行われている。その一環として、社員間でのコミュニケーションの促進や意見の共有が奨励されています。

一部のベンチャー企業 – 日本のスタートアップやベンチャー企業の中には、従業員の意見を尊重し、心理的安全性を確保することでイノベーションを促進しようとする企業も増えてきています。

心理的安全性を高めるための取り組み

心理的安全性を高めるためにはどのような取り組みをすればよいかについて。以下のような取り組みが重要とされています。事例を交えて紹介します。

失敗の受容:失敗を罰するのではなく、それを学びの機会として捉える文化を築くことが重要です。
事例: ホンダは「失敗は成功のもと」という言葉を社是として掲げており、新しいことに挑戦する際の失敗を許容する文化が根付いています。

開かれたコミュニケーション:上層部からの情報の透明性や、従業員間のオープンなコミュニケーションを奨励すること。
事例: パタゴニアは従業員に対して企業の価値やミッションを常に共有し、その結果として組織全体のコミットメントが高まっています。

フィードバックの文化:正直かつ建設的なフィードバックを奨励し、それを受け入れる能力を育成する。
事例: マイクロソフトでは、定期的な1on1のミーティングを通じて、上司と部下の間でのフィードバックが行われ、それにより成長の機会が提供されています。

多様性と包摂性:多様なバックグラウンドを持つ人々を尊重し、それぞれの違いを価値として受け入れる。
事例: アクセンチュアは、多様性と包摂性を組織の核として位置づけており、多くのイニシアティブを通じてその推進を行っています。

リーダーシップの役割:リーダーが率先して心理的安全性の重要性を認識し、それをチームや組織に伝えること。
事例: ピクサーの共同創設者、Ed Catmullは、クリエイティブなプロセスにおいて失敗を許容する文化の重要性を強調し、その思考を組織全体に浸透させています。

これらの取り組みを実施することで、組織内での信頼や協力のレベルが向上し、心理的安全性が高まることが期待されます。

心理的安全性を確保したうえでOKRに取り組む

OKRとは、グーグルなどが導入し成功している管理手法です。

OKR(Objectives and Key Results)は、企業やチーム個人の目標管理手法としてシリコンバレーを中心に広まった方法論です
OKRは「Objectives and Key Results」の頭文字をとっています。「OKR」とは、企業やチーム個人の目標管理手法としてシリコンバレーを中心に広まった方法論です。「OKR」とは、目標と達成度を測る指標を組織の目標(ミッションやパーパス)に関連付けて、組織と個人が向かうべき方向を明確にする目標管理手法です。特徴的なのは「個人としては達成が難しいくらいの大きな目標や夢を語ること」が...

心理的安全性が高いとOKRを導入した場合の成果がでやすいと言われています。

心理的安全性を阻害する要因、元凶は経営者にありがち

なお、組織の心理的安全性を阻害している要因でもっとも大きいのが経営者の存在です。とくに中小企業では経営者のパワーバランスが強すぎるので、経営者が普通に発言したことがパワハラやモラハラに受け取られてしまうこともありますから注意が必要です。

そこで、経営者自らが心理的安全性を作っていくための努力も必要になります。以下にその方法についていくつか紹介しておきます。

自己認識の強化:経営者自身が自分の態度や行動の影響を理解することは最初のステップです。360度フィードバックや第三者からのコンサルティングなどを活用して、自分の行動や態度についてのフィードバックを得ることが役立ちます。

経営の教育・研修:経営者向けのリーダーシップ研修やセミナーに参加し、最新の経営手法やリーダーシップの考え方を学ぶことが重要です。

意見交換の場の設定:経営者と従業員間での定期的な意見交換の場を設けることで、経営者は従業員の意見や懸念を直接聞くことができます。このような場を通じて、経営者が従業員の意見を尊重し、フィードバックを活用する文化を築くことができます。

外部の助言を受け入れる:経営者が独善的にならないためには、外部のコンサルタントや他の経営者とのネットワークを活用して、自社の経営や文化についての助言やフィードバックを求めることが有効です。

従業員の育成:従業員の成長やキャリアの支援を重視することで、経営者と従業員との関係性や信頼関係を築くことができます。

組織のビジョンや価値を共有:経営者が組織のビジョンや価値を明確にし、それを従業員と共有することで、組織の方向性や目的を共有することができます。

経営者が自らの行動や態度を変えることは容易ではありませんが、組織の成長や従業員の満足度の向上のためには、その取り組みが不可欠です。

経営者が心理的安全性に取り組むための対策

  1. 専門のコンサルタントやトレーナー
    • 人材育成や組織開発に関する専門知識を持つコンサルタントやトレーナーに依頼することが考えられます。彼らは具体的なニーズや課題に応じて、カスタマイズされたプログラムを提供してくれることが期待できます。
  2. 商工会議所や業界団体
    • 地域の商工会議所や関連する業界団体は、経営者や従業員向けの研修やワークショップを提供している場合があります。また、他の経営者とのネットワーキングの機会も提供されることが多いので、共通の課題や解決策について情報交換することもできます。
  3. オンラインの教育プラットフォーム
    • Udemy、Coursera、LinkedIn Learningなどのオンライン教育プラットフォームは、リーダーシップやコミュニケーションのスキル向上に関するコースを提供しています。費用も手頃で、時間や場所を選ばずに学ぶことができるため、中小企業には適しています。
  4. 経営者向けの研修やセミナー
    • 経営者やリーダー向けの研修やセミナーを提供している教育機関や経営コンサルタントに相談することも考えられます。
  5. 内部のリーダーや経験豊富な従業員
    • 組織内にリーダーシップやコミュニケーションのスキルが高い人がいれば、彼らをトレーニングのリーダーとして活用することも一つの方法です。

ここで紹介した方法がすべてではありませんし、必須ということでもありません。各経営者が自分や自社に適したやりかたを検討して導入するのがよいです。