中小企業基盤整備機構J-Net21のIT活用コンテンツ(平成17年度)に遠田の取材記事が公開される

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石川県酒造組合連合会のITネットワーク活用中小企業基盤整備機構のJ-Net21のIT活用コンテンツ(平成17年度)に遠田の取材記事が掲載された。
取材対象は石川県酒造組合連合会のITネットワーク活用についてだ。内容は、地元の酒造メーカー(酒蔵)がITを活用して新ビジネスを展開するためのITインフラ構築についてだ。
石川県酒造組合連合会の詳しい記事内容は
http://j-net21.smrj.go.jp/well/it/h17/case/profile/035/より。
さて、昨日は4位。今日は何位かな?⇒

syuzoukumiai_it2中小企業基盤整備機構は中小企業支援のための国の中核的機関。団体再編により名称が中小企業事業団、中小企業総合事業団、中小企業基盤整備機構と変わっているが、中小企業を支援するという使命はむしろ重みを増している。J-Net21は国の中小企業支援ポータルであり、事例掲載も豊富になっている。一見の価値有り。

以下は「石川県酒造組合連合会のITネットワーク活用について」の概要

酒類の需給構造が大きく変容する中で日本酒シェアは低下しており、地域の酒蔵はかつてない厳しい状況に直面している。さらに、規制緩和や経済環境の変化などで異業種間競争も激化しており、昨日の延長線上に明日が描ける状況ではなくなっている。この困難な状況に立ち向かっていくには、消費者、流通、行政、市況などあらゆる情報をすばやく入手し、それを生かす俊敏な経営体に変革していく必要に迫られている。
そのためには、まず組合連合会と地区組合を通じて組合員及び組合員相互の情報交換を密にしなければならない。さらに国税局や各種団体、得意先である卸や小売店、一般消費者などとの情報交換の重要性も日に日に高まっている。
しかし、情報処理能力が高まらないままの情報量の増加はかえって業務の停滞や意思決定の遅れになりかねない。必要な時に必要な情報をすばやく入手できるようになり、しかもその利用が戦略的に有効でなければ意味がない。
このようなことを可能とするために、組合に相応しい情報ネットワークシステムを構築することにした。関係者のデータ共有化が進めば、協同の力を発揮することが可能になるなど、組合員等の経営の進展、合理化に大きく寄与するものと考えられる。

3-1 ITベンダ選定

当組合事務局には人員が少なく、ITやネットワークに詳しい人材もいない。システム導入よりむしろ導入後の運営のほうが課題であった。そこで、導入後のASP運用のサポートを前提に、適切なシステム構築が可能なITベンダを選定することになった。

3-2 RFP

これまで要求定義したものをRFP(リクエスト・フォー・プロポーザル、提案依頼書という)にまとめた。RFPとは、企業が情
報システムやITサービスなどを調達する際に、発注先となるITベンダに具体的なシステム提案を行うよう要求すること、またはその調達要件などを取りまと
めたシステム仕様書である。ITベンダ側は、RFPに基づいて大まかなシステム設計を行って提案書を作成し、ユーザー企業に提出する。ユーザー企業はその
提案書を評価して、調達先の決定や契約の締結などを行うことになる。

このRFPをITベンダ数社に対して送付し、提案発表会を開催。2社から提案をいただき委員会で審査した結果、優秀な提案をしてくれた1社に決定した。ほぼ提案どおりの内容で契約し、開発はスムーズに行われた。

4-1 概要図

当システムは、組合員、組合(事務局)、消費者の間でそれぞれ情報が双方向で行き交うほか、これら三者の外部情報の取り込みも図ろうとするものである。その概要を以下のように図にした。

【図の番号の説明】

1 組合内部のネットワーク(組合員相互、組合員と地区組合さらに組合連合会とのネットワーク)

2 組合と仕入先および得意先企業とのネットワーク

3 組合と消費者および一般社会とのネットワーク

4 組合と国税庁及び諸団体とのネットワーク

システム構成図(サーバおよび端末、インターネット回線)
 

     システム構成資料1

システム構成資料2

システム構成資料3

4-2 運用形態はASP

サーバは組合事務所にはおかず、ITベンダ管理とする。つまりASP(アプリケーションサービスプロバイダ)運用となる。

組合員や組合事務局はそれぞれ各自のインターネット環境から、IDとPWでログインしてサービス画面に入ることができる。

ASPとは、ビジネス用のアプリケーションソフトを、インターネットを通じて顧客にレンタルする事業者のこと。組合員はWeb
ブラウザを使って、ASP事業者の保有するサーバにインストールされたアプリケーションソフトを利用する。レンタルアプリケーションを利用すると、ユー
ザーのパソコンには個々のアプリケーションソフトをインストールする必要がないので、企業の情報システム部門の大きな負担となっていたインストールや管
理、アップグレードにかかる費用・手間を節減することができる。

従来はERPなどの大規模な業務システムがレンタルの対象であったが、近年ではワープロや表計算などの日常頻繁に使われるアプリケーションソフトもレンタルされるようになりつつある。

今回は、開発したシステムをASP運用することにより組合事務局の運用負担を大幅に減らすことができると同時に、セキュリティなどの面でも安心度が高い。

4-3 管理者とセキュリティ

管理者は、組合事務局とする。セキュリティに関しては、ASP運用ということもあるので、セキュリティポリシーを明確にするよう進言した。

セキュリティポリシーとは全体の情報セキュリティに関する基本方針である。広義には、セキュリティ対策基準や個別具体的な実施
手順などを含む。どの情報を誰が読み取れるようにするか、どの操作を誰に対して許可するか、どのデータを暗号化するかなど、情報の目的外利用や外部からの
侵入、機密漏洩などを防止するための方針を定めたもの。コンピュータウイルス感染によるデータやシステムの破壊や、トラブルによる情報システムの停止、
データの喪失などに対してどう対処していくか、といった項目まで含める場合もある。

セキュリティポリシーを策定し公開することにより、責任の所在が明らかになり、判断基準や実施すべき対策が明確になる。組合員のセキュリティに対する意識が向上したり、対外的なイメージや信頼性が向上したりするといったメリットもある。

4-4 保守

ハードウェアの保守に関しては、ASP事業者に任せるので、組合側はとくに意識する必要はない。ただし、不定期なサービスの停
止や動作の不安定などは、利用者側にとっては大きなデメリットである。そこで、どの程度の信頼性を確保できるのか、故障率はどの程度でおさえるか等、保守
運用上のサービスレベルをあらかじめ合意しておく必要がある。そこで、この合意をSLA(サービスレベルアグリーメント)で交わした。

4-5 利用権限と利用時間

利用権限は、どのユーザーグループに属するかによって管理者が決定する。組合員、酒販店、中央会などのグループごとにどこまでの情報を公開共有するかをあらかじめ決めておき、アクセスできる権限を限定する。

なお、利用時間は基本的に24時間365日使える。ただし、サーバのメンテナンス時など一時的にサービスを停止することがあるので、その場合には、利用者には事前にメールなどで案内が必要になる。

5-1 導入時の組織

システム導入時はIT委員会を組織し、委員会がリーダーシップを発揮した。委員会は、委員長が組合連合会の副理事長、5地区の
各地区組合から1名ずつ、事務局から1名、さらにIT専門家が2名という構成である。実行力と権限を持った導入のためのプロジェクトチーム的な組織であっ
た。この組織が中心となり、現状分析や要求定義、RFP作成などを行い、ITベンダ選定後の導入まで深く関与した。

5-2 組合の運用体制

運用に関して、IT委員会が引き続き組織され、継続的に関わっていくこととなった。保守やサポートはITベンダがやってくれるので、実務的なことが中心となっている。

5-3 情報リテラシー教育

2005年3月に、普及講習会を開催し組合員に対してシステムの意義と使用法を説明して、マニュアルなど必要な資料を渡した。
しかし、それだけでは日々の活用までなかなか進まない。  そこで、5地区の組合ごとに実地研修を行うことにした。実地研修は、実際のPCを前に、自分の
IDとPWで実際にログインし、商品データベースの登録やポップ印刷などの機能を味わってもらうものとした。

6-1 経済効果のモデル

システム運用が始まって数ヶ月しか経っていないので、まだ検証はできない。ここでは、事前にシステム導入後の経済効果をシミュレーションしたのもを紹介しておく。

○コスト削減が見込める項目

組合員同士、組合員と組合間など、組合内部の情報共有⇒約98万円/年

酒販店や卸、仕入先等の流通と双方向の情報共有⇒約291万円/年

国税局等の行政機関等と双方向の情報共有⇒約1,404万円/年

(1組合員当たりは36万円と試算し39組合員数を掛けたものが約1,404万円となる)

○収益増加が見込める項目

消費者と双方向の情報共有による売上増加(WEBショップや販促支援など)⇒※未知数

6-2 組合員の意識向上

組合員のインターネット利用の意識は確実に向上した。この取り組みを機に、自らWEBショップを立ち上げたり、ブログで情報発信したりする組合員が複数現れてきた。
システム稼動からまだ数ヶ月であり、3
関係者の評価はまだ定まらない。システム的には、ランニング中にいくつかのバグが発見されたり、テストミスによる不具合が発見されたりした面もあった。い
ずれも初期で、本格導入でない時期であり、ITベンダのすばやい対応によりすみやかに解決している。

組合員の取り組みにまだ若干物足りない部分がある。特に、ほとんど関心がなく取り組んでくれない組合員が若干いるのが残念である。しかし、大部分の組合員が日常的に利用するようになれば劇的に効果が表れる、そのときに目を向けるときがくるはずと信じたい。

組合員の活用が進めば、次は酒販店の販促利用を支援していく手だろう。酒販店が店頭ポップなどの販促物を容易に作成できるよう
になることから、地酒販売の販促能力向上が図られる。 さらに、当システムにはWEBショップに関する取り組みへの支援機能が豊富にあるため、関係者の販
売意欲向上につながり、収益増加につながることを期待したい。

調査担当者:遠 田 幹 雄

コメント

  1. つかさ より:

    今度は取材、まさに神出鬼没の大活躍ですね。
    それにしてもこの酒造組合、ITインフラ整備で、具体的に何をして成果を上げたのか、非常に気になります。
    他の組合でも応用が利きそうですよね。
    遠田先生、差し支えない程度で、教えて下さいませませ。

  2. 遠田幹雄 より:

    どもども、つかささん。
    実はj-net21には3年連続で投稿し掲載されています。機会があれば事例報告しますよ。ITコーディネータのポイントもらえるかな?(^^;