事業ドメインは「顧客」「ニーズ」「独自能力」という3つの視点で分析する戦略ツールで、3次元定義ともいわれています

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事業ドメインは「顧客」「ニーズ」「独自能力」という3つの視点で分析する戦略ツール事業ドメインとは「顧客」「ニーズ」「独自能力」の3つの視点で分析する戦略ツールです。この3つは非常に重要な要素であり、事業を戦略的に考える上での基盤となり、成功への道を切り開くための指針となります。
中小企業の経営者であれば、これらの概念を理解し活用することで、競争の激しい市場での生き残りと成長を目指せるでしょう。以下に、これら事業ドメインと3つの視点についてわかりやすく解説します。

事業ドメイン(3次元定義)

事業ドメインは「顧客」「ニーズ」「独自能力」という3つの視点で分析する戦略ツール

「顧客」「ニーズ」「独自能力」について解説します。

顧客 (Customer)

事業を行う上で最も重要なのは、誰に対してサービスや製品を提供するのかを明確にすることです。
顧客を知ることで、どの市場に焦点を当てるべきか、どの顧客層にアプローチするべきかが決まります。例えば、年齢、性別、地域、職業などの属性や、趣味やライフスタイルの価値観など、様々な角度から顧客を分析し、ターゲットとする顧客層を特定します。
なお、この事業ドメインの顧客を「真の顧客」と呼ぶ場合があります。それは自社として究極の顧客像を示すようなペルソナのようなイメージでとらえるとわかりやすいかもしれません。

ニーズ (Needs)

次に、その顧客が何を求めているのか、どのような問題を抱えているのかを理解する必要があります。これが「ニーズ」です。
顧客が本当に必要としているものを提供することで、事業は価値を生み出し、顧客から選ばれるようになります。市場調査や顧客インタビューを通じて、顧客のニーズを深く理解することも大事ですが、それだけだと顕在化されているニーズしかわかりません。「実はこれが欲しかった」と感じるような潜在的なニーズにも着目しましょう。
顕在化しているニーズと潜在化しているニーズのどちらに注目するかによっても戦略の組み立て方が変わってきますので、ニーズ把握は要注意です。

独自能力 (Core competence)

最後に、自社が他社と比べて優れている点、つまり「独自能力」を明確にすることが大切です。
これは、技術力、サービスの質、顧客対応、ブランドの価値など、様々な形で現れるかもしれません。独自能力を把握することで、競合との差別化を図り、市場での独自の位置づけを確立できます。
とくに、競合他社がうらやむような卓越した能力まで高めることで「コアコンピタンス」と呼ばれるような企業の中核能力に磨き上げることが重要です。

「顧客」「ニーズ」「独自能力」の3つの視点

このように、「顧客」「ニーズ」「独自能力」というの3つの視点で、顧客と自社の関係を俯瞰します。この3つの関係性がうまくつながっているかどうかについて、ぐるぐると視点を動かしながら考えてみましょう。

そして、「顧客」「ニーズ」「独自能力」が見定まったら、その事業ドメインの事業価値を書いてみましょう。

事業ドメインから導き出される事業価値

事業ドメインの3次元定義の図は、「顧客」「ニーズ」「独自能力」という三つの要素が相互に関係しながら、最終的に「事業価値」を生み出すプロセスを示しています。

ここでいう「事業価値」とは、企業が顧客に提供する価値の総和を指します。それは、企業が市場において提供する製品やサービス、顧客サービス、ブランドの信頼性、そして顧客のニーズを満たすための独自の解決策などが含まれます。

事業価値は、企業が競合他社と差別化できるポイントであり、顧客からの信頼や事業の継続性を確保するための重要な要素です。

ただし、初めて戦略立案を検討するような場合、この事業価値がなかなかピンとこないようです。ですから、事業価値は「当社のキャッチフレーズ」のようなもの、というように気楽に考えてみることがよいです。

また、企業理念やミッションなどという概念的なものがぴったりと腑に落ちる場合もあります。

事業価値については絶対書かなければいけないわけではないので、どうしても書けない場合は空欄にしておいてもいいです。一晩おいてからひらめくこともあります。

事業ドメインの記入例

以下の事業ドメインは、私(遠田幹雄)がその企業を顧客の視点から俯瞰して「こうではないか」という観点で作成したものです。各社が発表しているわけではないのでご注意ください。
あくまでも事業ドメインの理解のため、記入を作成するお手伝いのため、ということでご承知おきください。

スターバックスの事業ドメイン(記入例)

  1. 顧客の視点: スターバックスはコーヒー愛好者、カフェでの作業や会議をする人々、高品質のカフェ体験を求める顧客など、幅広い顧客層にサービスを提供しています。
  2. ニーズの視点: 顧客のニーズには、高品質のコーヒーや飲料、快適な座席、無料Wi-Fi、ブランドイメージによるステータスの提供、そしてコミュニティの場としての空間提供などがあります。
  3. 独自能力の視点: スターバックスは、豊富なコーヒーの種類とカスタマイズオプション、快適な店舗環境、強力なブランド力、および地域社会への積極的な関与により、他社と差別化しています。

スターバックスはただのカフェでなく「サードプレイス(第3の場所)」という事業価値があります。スターバックスは、コーヒーを提供するだけでなく、顧客のライフスタイルに合った新しい形のカフェ体験を提供することにより、独自の市場ニッチを確立しています。

Appleの事業ドメイン(記入例)

  1. 顧客の視点: Appleの顧客はテクノロジーを愛し、デザインに価値を見出し、簡単な操作性や高い機能性を求める人々です。顧客層は幅広く、テクノロジーエンスージアストから一般消費者まで様々です。
  2. ニーズの視点: Appleの製品は、革新的な機能と独創的なデザインが求められています。顧客は使いやすさ、信頼性、セキュリティ、およびステータスシンボルとしての価値を重視します。
  3. 独自能力の視点: Appleは、革新性、独創的なデザイン、使い勝手の良さ、優れた技術、強力なブランドイメージを持っています。これらの要素が、優れた顧客体験を提供する独自能力となり、他社との明確な差別化と強力な市場地位を築く基盤となっています。

Appleの事業価値に「クリエィティブ」と書いたのは、Apple創業者の故ステーブジョブの強いメッセージが「クリエイティブ」だったからです。実はAppleは明確な企業理念を発表していません。ですが、その高い革新性あるクリエイティブ能力が、独自能力とニーズの理解、顧客との強い関係に大きく依存しており、これが同社をテクノロジー業界のリーダーにしているので、違和感はないでしょう。

ユニクロの事業ドメイン(記入例)

この図は、ユニクロという衣料品小売業者の事業ドメインを分析するためのフレームワークを想定しています。それぞれの要素を分析し評価してみましょう。

  1. 顧客の視点: ユニクロはファッションに敏感で、機能性と洗練されたデザインを重視する消費者をターゲットとしています。その顧客層は幅広い年齢層をカバーし、手頃な価格で良質な衣料品を求めています。
  2. ニーズの視点: ここで強調されているのは、「高品質でスタイリッシュながら手頃な価格のベーシックアイテム」を求めるという消費者のニーズです。ユニクロは、シンプルでベーシックながらも高機能性を持つ製品で知られており、顧客の「良いものを手頃な価格で」というニーズに応えています。
  3. 独自能力の視点: 独自能力では、「良い素材、革新を追究し、世界を変えていく」とされており、これはユニクロが素材開発における研究や革新的な商品開発において優れている点を指し示しています。例えば、HEATTECHやAIRismなどの特許取得済み素材は、ユニクロの技術力の象徴です。

事業価値は、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」と記載しました。これはユニクロ自身が発表している概念です。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/report/2022/fr-way/
ユニクロの事業は、単なる衣料品販売にとどまらず、生活様式やファッションの常識を変えるという大きな影響力を目指していることを意味しています。ユニクロはその価値提案を通じて、世界的なブランドとしての地位を確立しています。

このユニクロの事業ドメインは、当社が顧客のニーズを満たしながら、独自の価値を創造していることを示しており、競争の激しいアパレル市場でのその成功を理解するのに役立ちます。また、サステナビリティやイノベーションに焦点を当てることで、市場での差別化とブランドの強化を図っていることが伺えます。

整体院、2つのケースで記入した例

整体院(ここは幅広く接骨院や鍼灸院も含むとします)は日本全国に10万箇所もあると言われています。その数は郵便局やコンビニエンスストアよりも多いです。ですから、競合も激しく独自性をどう打ち出すかはとても重要な戦略的な視点になります。

そこで、整体院を「痛み改善」と「美容目的」という2つの大きな視点の違いから、事業ドメインを記入してみました。

痛みを改善してくれる整体院

  1. 顧客:「あちこち痛い人」というのは少し絞り込みが甘いかもしれません。このような「おおざっぱな顧客層」よりも、もっと具体的なターゲットを定めたほうがいいでしょう。
    例えば、「スポーツによる怪我を持つアスリート」や「慢性的な肩こりに悩むオフィスワーカー」といった具体的なセグメントを考えると良いかもしれません。
  2. ニーズ:顧客が持つ痛みの種類を具体化し、それぞれに対する専門的なアプローチを提示することが重要です。たとえば、筋肉痛、関節痛、神経痛など、顧客の痛みや症状は多様です。もう少し具体的にニーズを捉えたほうがいいかもしれません。
  3. 独自能力: 「鍼灸の技術を症状改善のために提供する能力」とあります。できればこれをさらに詳細に分解して、どのような技術や手法、設備を持っているかを明記したほうがいいでしょう。
    また、治療方法だけでなく、顧客にとってのアクセスの容易さや、治療後のケアプログラムなども独自能力として考慮に入れてもよいです。

美容目的の整体院

  1. 顧客: 顧客のカテゴリをさらに細分化することで、より具体的なターゲット市場を定義できます。たとえば、年齢、性別、ライフスタイル、美容への関心の度合いなどによってセグメントを分けることが考えられます。
  2. ニーズ: ニーズの部分を「美容が目的」のみならず、「リラクゼーションを求める」といった精神的な側面や「プロフェッショナルなアドバイスを求める」といった専門性を求める声にも注意を払うと良いでしょう。
  3. 独自能力: 独自能力には、技術や施術の質だけでなく、顧客サービスや店舗の雰囲気、オンライン予約システムの利便性など、顧客体験全般を含めるとより包括的な強みになります。