西田幾多郎記念哲学館では毎月のように「ふらふら哲学カフェ」という哲学イベントがあります。気になっていたのですがいつも日曜日午後開催で「どもどもカフェ」と時間帯がかぶるため参加したことはありませんでした。
しかし、今回は、たまたまでしょうが、土曜日午後開催で、しかも業務予定も調整ができたので、参加申し込みをしていました。テーマは、「人はなぜ働くのか?」でした。
今回は、その哲学カフェに参加した2時間で考えたことを振り返ってみたいと思います。
ふらふら哲学カフェは「知識を披露する場」ではありませんでした

会場は、哲学館の5階にある展望ラウンジでした。大きな窓から町並みを見渡せる、明るく開放的な部屋です。机を囲んで座るというより、景色を背に車座になって語り合う、そんな雰囲気でした。
参加者は、定員15名に学生の方が数名加わり、全部で20名ほど。年齢も立場もばらばらです。
始まってすぐに分かったのは、ここが哲学の専門知識を競う場ではない、ということでした。難しい哲学者の名前を出す人はほとんどいません。一人ひとりが自分の経験を持ち寄り、「そういえば、これってどういうことなんだろう」という素朴な疑問を、その場でゆっくり言葉にしていく。そういう時間だったのです。
「結論を出さなくてもいい」という不思議なルール
最初に、対話のためのルールが紹介されました。私がメモした範囲では、こんな内容です。
- 人の話を最後まで聞く
- むずかしい言葉ではなく、自分の言葉で話す
- 話さなくてもよい。考えていることが大切
- 結論を急がない。結論が出なくてもよい
とくに心に残ったのは、最後のルールです。
仕事の会議では、限られた時間のなかで結論を出すことが求められます。「で、どうするの?」と問われ続ける毎日です。ところがこの場では、問いを急いで片づける必要がありません。それどころか、「簡単には決められない」と気づくこと自体に意味があるとされていました。
結論を出さない議論に、こんなに豊かさがあるのか——。それが、最初の小さな発見でした。
そもそも「働く」とは何だろう

対話が始まると、さまざまな角度から意見が出ました。
働くとは、会社に勤めることなのか。お金を得ることなのか。誰かの役に立つことなのか。では、家事や育児、介護、勉強、地域活動、趣味の制作は、「働く」に含まれるのか。考え始めると、境界線はあっという間にあいまいになっていきます。
今回は若い参加者が多かったこともあり、生活費の話は大きなテーマになりました。
好きな仕事だけを選べるとはかぎらない。働きたくない日があっても、お金が必要なら働くしかない。そうした現実的な感覚も、きれいごと抜きで率直に共有されていたように思います。働くことには、理想だけでは語れない切実な面がたしかにあります。
「10億円あったら、それでも働きますか?」
対話の途中で、ひときわ印象的な問いが投げかけられました。
「もし10億円あったら、一生お金の心配はいりません。そうなったら、あなたはどうしますか?」
参加者が順番に答えていきます。
「働かずに、好きなことをして暮らしたい」「旅行をしたい」「趣味を思いきり楽しみたい」。そう答える人もいました。気持ちはよく分かります。
ところが面白いことに、大多数の人は、形を変えながらも「何かしらの活動は続けると思う」と答えたのです。
何もしない毎日では退屈してしまう。誰とも話さない生活は寂しい。一日に区切りがほしい。人との関わりがほしい。自分にできることを続けたい——。理由はさまざまでしたが、共通していたのは、報酬がなくなっても人は完全には働くことをやめないらしい、という手応えでした。
ふらふら哲学カフェに参加中に考えたこと
以下は、直接的に哲学カフェの内容を表すのではなく、参加者のお話を聞きながら私が連想したり、考えたことを、つらつらと書いた内容です。
人は「退屈しのぎ」のために働く?
この話を聞きながら、以前読んだ國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』を思い出しました。そして、ふとこんな考えが浮かびました。
人は、退屈しのぎのために働いている面もあるのではないか。
「退屈しのぎ」と言うと、少し投げやりに聞こえるかもしれません。仕事には大した意味がない、と言っているようにも見えます。けれど、この日の対話を通じて、必ずしもそうではないと思うようになりました。
退屈しのぎとは、ただ空いた時間を埋めることではありません。一日に流れをつくること。誰かと関わること。身体や頭を動かすこと。自分の力を使って、世界を少しだけ変えること。そう捉え直すと、「退屈を避けたい」という気持ちは、人間の活動のかなり深いところにつながっているように思えてきます。
「暇つぶし」と「生きがい」のあいだ
たとえば、定年後に畑仕事を始める人がいるとします。
収入のためではありません。効率を最大化する必要もありません。本人は「家にいても暇だからね」と笑うかもしれません。
けれど、畑へ行けば、朝起きる理由ができます。身体を動かせます。季節の変化に気づきます。近所の人と立ち話をする機会も生まれます。野菜が育てば、手応えもある。表面上は「暇つぶし」でも、それは生活全体を組み立て直す、大切な活動になっています。
そう考えると、「暇つぶし」と「生きがい」のあいだに、はっきりした境界線はないのかもしれません。
働くことは、暮らしに「かたち」を与える

この日いちばん腑に落ちたのは、「働く理由はひとつではない」ということでした。
生活費を得るために働く。家族を支えるために働く。社会の役に立つために働く。誰かと関わるために働く。退屈しないために働く。自分の力を確かめるために働く。
これらは互いに排他的ではありません。ひとつの仕事のなかにも、いくつもの理由が重なっています。
そして、会社に勤めることだけが「働く」ではありません。家事をすること、学ぶこと、人の話に耳を傾けること、地域の活動に参加すること、自分の暮らしを整えること。報酬がなくても、生活に「かたち」を与える活動は、私たちの身のまわりにたくさんあります。
西田幾多郎の『善の研究』と重ねてみる
会場が西田幾多郎記念哲学館だったこともあり、実は昨日『善の研究』の一部を少し読み返してました。

西田は、善を単なる利益や快楽だけでは捉えていません。第三編第十一章「善行為の動機(善の形式)」では、人間にとっての善を、内側にある深い要求を満たし、「人格の実現」へ向かうこととして論じています。ここで言う「人格」とは、その人の欲望・考え・行動をひとつにまとめている、全体としてのあり方のことです。
また別の箇所では、理想を現実にしていくことを「意志の発展完成」と捉えています。「意志」とは、選んで自分を動かす力、と言い換えてよいでしょう。
もちろん、西田が「人は退屈しのぎのために働く」と述べているわけではありません。けれど、この日の対話を西田の考え方と重ねてみると、こんな見方ができるように思いました。
退屈とは、ただ何もすることがない状態ではなく、自分の内側にある「活動したい」という要求が、向かう先を失っている状態なのではないか。
人は、生活費のためだけに働くのではない。自分の時間にかたちを与え、自分の力を現実のなかで使い、誰かや何かとの関係を結ぶためにも働いている。そんなふうに考えられるようになりました。
答えではなく、問いを持ち帰る

2時間ほどの対話を終えても、「人はなぜ働くのか?」という問いに、すっきりした答えが出たわけではありません。
でも、それでよかったのだと思います。
少なくとも私は、働くことを収入や就職だけで考えることがなくなりました。「退屈しのぎ」という言葉も、以前より少し深く見えるようになりました。
そして、新しい問いが手元に残りました。
働かなくても生活できるとして、それでも私は何をしたいだろうか。誰にも評価されず、報酬も得られないとして、それでも続けたいことは何だろうか。
哲学カフェとは、答えを持ち帰る場所というより、日常のなかで考え続けるための「問い」を持ち帰る場所なのかもしれません。次の開催も、日曜日以外なら参加してみようと思います。
▼本日の対話をメモしたホワイトボード

ふらふら哲学カフェ

このホームページは、石川県立看護大学の中嶋優太研究室の中嶋先生が運営管理されているようです。

この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
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