3月7日(土)と8日(日)、2日間にわたり西田幾多郎哲学記念館で開催された哲学講座のテーマは「いのち」です。この講師は関西学院大学教授の岡本哲雄さんでした。岡本先生は京都大学卒業だそうですが、哲学講座は京都大学に関連がある先生が多いですね。
この哲学講座は毎回違うテーマで講師も多彩ですが、2025年に予定された10回の哲学講座の最終回になります。
西田幾多郎記念哲学館の哲学講座
いのち前半は3月7日(土)。ちょうど講座が始まる直前の13時すぎは少し青空が見えましたが少し肌寒い日でした。

講座は地下ホールで開催されています。1回で受付してレジュメをもらい階段を降りて会場に向かいます。
2025年度の哲学講座

今回の講座は「いのち」がテーマでした

ヴィクトール・エミール・フランクルさんの「夜と霧」
題材となっているのはオーストリアの精神科医であり哲学者でもあるヴィクトール・エミール・フランクルさん(1905–1997)。世界的名著『夜と霧』の著者として広く知られる彼の思想は、単なる戦争の悲惨さを伝える記録という枠を超え、現代を生きる私たちの「いのちの在り方」を根本から揺さぶる力を持っています。
私たちが「生きる意味」を見失いそうになる時、あるいは価値観が激しく揺れ動く不確実な時代において、私たちはどこに希望の拠り所を見出すべきなのでしょうか。
初日(3/7)の講座は、そんなことを考えさせてくれるような深い内容でした。

初日の感想はnoteにて掲載しました。
また、「どもどもAI」が上記のnote記事をふまえて考察したブログ記事を書いてくれました。

なかなか優秀な相棒として育ってきています。ありがとう。
2日目(3/8)の講座は教育者向けのように感じました
3/8の午前に「いのち」の後半の講座がありました。昨日の講座に比べると受講者が増えたような印象です。おそらく学校の教育者関係(先生たち)が多数来ていたのだろうと思います。
以下は主に2日目の講座を受けての感想です。
価値から意味へ 〜V.E.フランクルの哲学に学ぶ、正解のない時代の生き方と他者支援〜
現代社会を生きる私たちは、物質的な豊かさや利便性を手に入れた一方で、「何のために生きているのか」「今の仕事にどんな意味があるのか」という深い虚無感に襲われることが少なくありません。
オーストリアの精神科医であり哲学者でもあるヴィクトール・フランクル(V.E. Frankl)は、この現代特有の悩みのメカニズムと、その乗り越え方を明確に示しています。
フランクルの思想(ロゴセラピー)を通して、私たちが陥りがちな「むなしさ」の正体を紐解き、これからの時代に求められる「価値から意味への転換」、そして教育やビジネス(コンサルティング)における他者への理想的な関わり方についてまとめます。
「価値」が揺らぐ時代と、忍び寄る「実存的空虚」
なぜ、私たちはこれほどまでに「むなしさ」を感じやすいのでしょうか。フランクルは、その原因を人間の本質と歴史的背景から説明しています。
人間には、動物のように「どう生きるべきか」を自動的に教えてくれる完全な本能が備わっていません。かつては、伝統や宗教、強固な社会通念といった共通の「価値」が、人々の生きる方向性(正解)を示してくれていました。
しかし、近代化や価値観の多様化によって、これらの「価値」は揺らぎ、絶対的なものではなくなりました。フランクルは、「価値」とは時代の変動の中で崩壊しうるものだと指摘しています。
本能も「価値」も生きる道を教えてくれない現代、人間は方向感覚を失い、退屈や無気力、無関心といった「実存的空虚」と呼ばれる状態に陥りやすくなっています。
私たちはこの空虚感をどうにか埋め合わせようと、以下のような間違った逃避行動に走りがちです。
コンフォーミズム(体制順応主義): 自分で考えるのをやめ、とりあえず周囲の集団や世間に同調することで安心を得ようとする。
権威への依存: カルト集団や極端なイデオロギーにすべてを委ねる(狂信・全体主義)。
代償行為: むなしさに向き合うのが怖いため、予定がないと不安になる「日曜神経症」や、ただがむしゃらに働き続ける「仕事中毒(ワーカーホリック)」に陥る。
これらはすべて、自分自身の人生に向き合うことからの逃避にすぎません。
人生観のコペルニクス的転換と「幸福の逆説」
実存的空虚から抜け出し、真の充実感を得るためには、人生に対する「問いの向き」を180度転換する必要があります。
誤った問い(自己中心的): 「私は、人生に何を期待できるか?(人生は私をどう楽しませてくれるか?)」
正しい問い(自己超越的): 「人生は、私に何を期待しているか?(今、自分が置かれたこの状況は、私に何を呼びかけているか?)」
フランクルは、私たちが人生に何かを要求するのではなく、人生のほうから常に「問われている」のだと説きます。この呼びかけに対して、日々の仕事(創造)や、自然・芸術・他者との触れ合い(体験)、あるいは避けられない苦難に対する姿勢(態度)を通して、誠実に「応答(response)」していくこと。これこそが人間の「責任性(responsibility)」の形成につながります。
ここで非常に興味深いのが、フランクルの幸福論(幸福のパラドックス)です。 「自分が幸せになりたい」と直接的に幸福や快楽を追い求めると、幸福はかえって逃げていきます。
しかし、自分の利益を一旦脇に置き、目の前の状況や誰かのために無心で取り組む(呼びかけに応答する)と、幸福は「意図せざる結果(副産物)」として、向こう側から自然とやってくるのです。
崩壊する「価値」と、決して失われない「意味」
フランクルの哲学を実践する上で最も重要なのが、「価値」と「意味」の決定的な違いです。
「価値」が社会で共有された方向性であり、時代とともに崩壊しうるものであるのに対し、「意味」はまったく異なります。
「意味」とは: その時、その状況、その人だけに与えられた「唯一無二の独自の可能性」のことです。
「意味」の不滅性: どんなに社会の価値観が揺らいでも、どんなに過酷な状況に置かれても、個人にとっての「意味」は原理的に崩壊することなく、必ずどこかに隠れています。
現代は「生きる意味」が失われたのではなく、共通の「価値」が見えにくくなったことで、一人ひとりが自分自身の「意味」を感受することが困難な時代になっただけなのです。
教育の使命:「意味」を教え込むことはできない
では、「価値(正解)」が揺らぐ不確実な時代において、私たちは次世代の子どもたちをどう教育していくべきでしょうか。
前提として、大人から子どもへ特定の「価値」を絶対的な正解として押し付けることはもはや通用しません。
また、その子だけの唯一無二の「意味」を、他者が言葉で直接教え込むことも原理的に不可能です。
だからこそ、教育の最大の使命は、隠れた意味を見つけ出すセンサーである「己の良心(意味器官)に耳を傾ける力を培うこと」になります。
大人は「意味」を教えられない代わりに、子どもが自ら意味を発見するための「触媒」としての役割を果たすことができます。 そのためには、教育者(大人)自身が「自分は人生から何を期待されているか」を真剣に考え、意味を探求すべく格闘している「生きた実例(モデル)」として子どもの前に立つ必要があります。
大人のその誠実な姿勢(習慣)に触れることで初めて、子ども自身の「意味器官」が洗練されていくのです。
社会人(大人どうし)の「生きた実例」 〜コンサルタントと経営者〜
この「意味は教えられない」「大人は生きた実例であるべき」というフランクルの教育論は、そのまま大人どうしのビジネスの関係にも適合します。
例えば「職業コンサルタント」と「中小企業経営者」の関係にも深く当てはまります。
企業の存在意義(パーパス)や、直面する経営課題の真の解決策といった「意味」を、コンサルタントが外部から「正解の価値」として与えても、経営者の腹には落ちず、組織は変わりません。
優れたコンサルタントに求められるのは、普遍的なフレームワークや技術を振りかざすことではなく、経営者自身が自社の「意味」に気づくための「触媒」になることです。
そのためには、コンサルタント自身が日常的に自らの仕事の「意味」に深く向き合い、目の前のクライアント企業のために何ができるかを真剣に格闘する「生きた実例」として経営者と対峙しなければなりません。
コンサルタントのその誠実な態度(習慣)こそが経営者の心を打ち、「自分も経営者として、自社の課題(意味)から逃げずに立ち向かおう」という真の変革の原動力となるのです。
フランクルからの学び
私たちが生きているのは、誰かが決めた「価値」に寄りかかって生きられる時代ではありません。一人ひとりが、自分にしか成し得ない「意味」を見つけ出すことが求められる時代です。
日常の退屈さからビジネスの最前線に至るまで、人生からの呼びかけに常に耳を澄まし、他者に対して自らが「生きた実例」となれるよう、日々の実践を積み重ねていきたいと思います。

西田幾多郎記念哲学館にある思索の道
「戦争・平和・哲学」というポスターが貼ってありました
さて、「戦争・平和・哲学」というポスターが館内に貼ってありました。ちょうど最終日が、この3月8日(日)ということになります。


地下ホールでの展示の様子をイラストにしてみました。こたつに入って気に入った書籍を読むことができるようになっていました。
今年度の哲学講座は本日が最終日でした。来年度(2026年4月以降)の予定はまだ決まっていないということでしたが、5月23日(土)が1回めで浅見先生の講義になるとのことでした。継続参加する場合は手帳にメモしておきましょう。

この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
民民での直接契約を中心としていますが、商工三団体などの支援機関が主催するセミナー講師を年間数十回担当したり、支援機関の専門家派遣や中小企業基盤整備機構の経営窓口相談に対応したりもしています。
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