寒ざらし蕎麦は江戸時代に将軍様に献上されたほど希少価値が高い味わい深い蕎麦である

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名人の技 蕎麦越前打ち名人「安久義二」氏の手打ちした蕎麦は通販で取り寄せることができる。昨年大晦日の年越しそばは安久名人の打った蕎麦を家族でいただき大好評だった。その「名人の技」蕎麦を本日夜にいただいた。それもなんと2種類という贅沢である。定番の「名人の技蕎麦」と話題の「寒ざらしそば」の二種類を食べ比べしてみた。
そもそも、寒ざらしそばとは、江戸時代に将軍様に献上されたという価値ある蕎麦。秋に採れた蕎麦の実を袋に入れ、厳寒期(寒中・大寒から立春まで)の冷たい清流に浸しておく。その蕎麦の実を天日と寒風に晒しながら約1ヶ月かけて乾燥させた玄蕎麦を製粉し、打った蕎麦が「寒晒し蕎麦(寒ざらし蕎麦)」。このような製法により、風味が落ちるといわれる初夏から夏場にかけての蕎麦が、まるで新そばのような香りや味わいになるといわれている。

生そばなので、蓋を開くと蕎麦の香りが立ち上がってくる。
自宅で茹でる生そば

自宅で茹でる生そばはやはりおいしい。

二種類の蕎麦を食べ比べてみる

今回は、二種の蕎麦の食べ比べをしたかったので、当然蕎麦は別々に茹でた。自宅のキッチンで一番大きな鍋に水をたっぷりと入れ沸騰させる。蕎麦の麺はパラパラと泳がせるように湯に入れる。蕎麦の茹で時間は1分30秒から2分の間くらいで、蕎麦の頃合いを見てからざるにあける。大量の冷たい水で蕎麦を引き締めて、指で軽く揉みほぐし、ぬめりをとる。ざるで水切りをしてできあがりである。

まずは定番の「名人の技」をいただく。

▼安久名人の定番の蕎麦
名人の蕎麦を自宅で食べる

名人の蕎麦を自宅で食べるというのは贅沢な気持ちになれる。安久名人の打った蕎麦は越前おろしそばらしい蕎麦で、一般的な信州そばに比べると太めで固い。しかし、つるつるシコシコという食感は十分で喉越しもよい。さらに蕎麦の上品な香りが強く感じられ、蕎麦自体の味わいも噛んで味わう楽しみがある。安久名人の越前おろしそばは味わいが深いのである。遠田は蕎麦自体の味わいを楽しめる太麺の蕎麦のほうが好きなので、この蕎麦はとても好きな蕎麦である。

蕎麦は、新そばの時期の11月頃が一番人気が高い。その新そばのころの蕎麦と比較すると、やはり4月の蕎麦は少し味が痩せた感じがするし香りも弱くなっている。素人の自分が茹でたので、蕎麦の味わいを引き出しきれていないのかもしれないが、蕎麦というのは食べる時期によって同じ蕎麦でも風味が違うものである。それはそれで蕎麦の楽しみのひとつだろう。

今日の名人の技の蕎麦は十分にうまかった。少し固めでコシが強くでていたような気がする。それはそれで好みの方向である。

さて次は寒ざらしそばである。

▼安久名人の寒ざらしそば
寒ざらしそば

寒ざらしそばを器に盛り付けた。見た目はまったく変わらない。生麺でも茹で上げた蕎麦でも、色や手触りなどはほとんど見分けがつかない。

さて寒ざらしそばをいただくことにする。まず香りはどうか。蕎麦のいい香りがつーんとあがってくる。しかし定番の蕎麦に比べて強く出ているというほどではない。

しかし、食べた感じは違った。寒ざらし蕎麦は食感が違う。固めでシコシコしているのは共通点だが、モチモチ感というか弾力が格段に増えている気がする。味わいも少し甘みというか蕎麦の旨みが強く出ている。よく噛んで味わうには非常にうまい深い蕎麦である。もっとたくさん食べたかったが、家族もたいへん気に入ったようでまたたくまに平らげられてしまった。

なるほど、昔、大名が好んで食べたというのもわかるような気がする。蕎麦好きなら、春から夏の気温が上がる時期に冷たい蕎麦が食べたくなる。しかし、この時期は蕎麦が一番痩せた味になってしまう時期でもある。寒ざらしそばはそれを防止する効果がある。4月から夏ころまでは寒ざらしそばなら旨みをぐっと引き上げて提供することができるかもしれない。

寒ざらしそばの特徴

素人蕎麦好きながら、定番の蕎麦と寒ざらしそばを食べ比べた印象としては、次のことがあげられる。

  • 寒ざらしそばは見た目には普通の蕎麦と変わらない(見分けるのは困難)
  • 寒ざらしそばの香りは普通の蕎麦とそれほど変化が感じられなかった
  • 寒ざらしそばの食感はぐんとよくなっている、シコシコしており喉越しもよい
  • 寒ざらしそばは蕎麦の味が強調され、旨みが前面にでてくる感じがする

今回は自分の主観のみなので、実際にはもっと違いがあるかもしれないがひとつの事例としてレポートしておく。なお、寒ざらし蕎麦は品種のことではなく、製法のことである。全国各地に、いろんな寒ざらしそばがあるようなで、機会があればそのような食べ比べをしてみたいものだ。

また、安久名人の探究心の強さと向上心の高さには感服した。安久名人は以前も「ハトムギ入り蕎麦」を探求したり、商品開発をしたりしている。日本一になった名人が、さらに高みを目指していろんなことにチャレンジしているという姿勢が、一番の学びであった。安久名人、ほんとうにありがとうございます。