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本日は「業種別の現場ネタ(製造・小売・飲食・サービス)」をテーマに、ドラッグストア大手による食品・総菜の本格強化と異業種連携を取り上げます。スギホールディングスとトライアルホールディングスによる資本を伴わない包括提携や、イオンウエルシア九州の新業態「ウエルシアプラス」の出店から、食品スーパーや個人商店、地域の食品製造業が大手に対抗するための商品設計と相互補完の実務を掘り下げます。

記事の後半では、地域の事業者同士で総菜を融通し合う「ミニ提携」を始める前に確認すべき許可・表示・取引条件と、自社が提携に向くかどうかを判定するチェックリストも整理しました。
ドラッグストアの「食」戦略は本格総菜と生鮮のワンストップへ
ドラッグストアの食品売り場といえば、かつてはカップ麺やスナック菓子、清涼飲料水、調味料といった日持ちのする加工食品を安売りし、処方箋や日用品、化粧品を買いに来る顧客を集めるための「客寄せ(ロスリーダー)」という位置づけが中心でした。
しかし現在、ドラッグストア各社が展開している食品戦略は、従来の安売り集客の段階を大きく超えています。スーパーマーケットと変わらない新鮮な野菜や果物、精肉、鮮魚といった生鮮三品を並べ、さらには店内調理や専門ノウハウを投入した本格的な弁当・総菜までカバーする店舗が急速に増えています。
その象徴的な動きのひとつが、イオンウエルシア九州が熊本市東区に10月29日に出店する新業態「ウエルシアプラス長嶺南店」です。売場面積904平方メートル、駐車場39台を備えたこの店舗は、調剤薬局を併設しながら、生鮮食品や出来立ての弁当・総菜を豊富に揃える構成をとっています。
店先にはイオンのプライベートブランド(PB)である「トップバリュ」の値ごろ感ある商品群が並び、ウエルシアのPBである「からだWelcia」「くらしWelcia」も展開されます。さらに、全国どこの医療機関の処方せんも受け付ける調剤薬局に加え、店舗の営業時間内(9時〜22時)であれば土日や祝日でも処方薬を受け取れる「薬受け取りロッカー」まで設置されています。
生活者は仕事帰りや休日に車で立ち寄り、処方薬の受け取りを済ませ、今夜のおかずや翌日の生鮮食品、日用品を1つのレジでまとめて精算できるようになりました。日用品のついでに食品を買うのではなく、「今晩の食事の調達と健康相談を同時に完結させる場所」へとドラッグストアの役割が書き換えられています。
ウエルシアプラス長嶺南店の出店概要は、流通ニュースの記事で報じられています。

資本提携に頼らないスギHD×トライアルの5つの相互補完

ドラッグストアが食品、とりわけ賞味期限が短くロス管理が難しい総菜や生鮮を強化しようとする際、従来は地場スーパーの買収(M&A)や、自社内での食品加工センター建設といった多額の資金投下が一般的でした。しかし、巨額のキャッシュアウトを伴う手法とはまったく異なるアプローチをとったのが、スギホールディングスとトライアルホールディングスによる「包括的戦略提携」です。
スギHDは2026年2月期に売上高1兆円を突破し、2027年2月期からスタートした新中期経営計画では最終年度の売上高1兆6000億円を目指しています。同社の物販における食品売上高はすでに2067億1900万円に達し、売上構成比で30.2%を占めていますが、さらなる成長の起爆剤として選んだのは、スーパーセンタートライアルを展開するトライアルHDとの資本を伴わない協業でした。
両社が合意した協業内容は、大きく分けて次の5点から成り立っています。
1. スギ薬局の調剤薬局・ドラッグストアをトライアルの店舗へテナント出店
2. スギ薬局からトライアルへヘルス&ビューティー(H&B)商品の供給および棚割り・売場づくりノウハウの提供
3. トライアルの即食商品(総菜・弁当)のスギ薬局への供給
4. 店舗のデジタル基盤である「GOシステム」のスギ薬局への導入とリテールテックの相互導入
5. 両社プライベートブランド(PB)の相互取り扱い
この提携の最大の特徴は、互いの強みをそのまま交換し合っている点にあります。スギ薬局は自前で食品工場を建てたり、総菜づくりの専門技術者を一から育成したりすることなく、トライアルの看板商品であるかつ重などの人気総菜や弁当を店舗に並べることができます。一方のトライアルは、手薄だった調剤薬局機能やH&Bの専門的な棚割りノウハウをスギ薬局から手に入れることができます。
実際、名古屋市港区にある協業実験店「スギ薬局砂美店」では、トライアルの総菜を導入したことで食品の売上構成比が40%近くまで跳ね上がりました。スギHDでSCM・DX・コーポレートブランディングを担当する森永和也執行役員は、この実験について、店舗の食品比率をただ伸ばすこと自体が目的ではなく、人気のかつ重などの即食商品に客が手を伸ばすことで来店頻度が上がり、他の商品もあわせて購入される客単価向上を狙ったものであり、実際にそれを達成できたという趣旨の説明をしています。
ここで注目したいのは、「総菜で利益を稼ぐ」のではなく「総菜で来店頻度を上げ、店全体の売上を伸ばす」という設計になっている点です。総菜は単品の粗利だけで評価すると、廃棄ロスや人件費を差し引いて割に合わないことも少なくありません。しかし、週に1回しか来なかった顧客が週3回来るようになれば、医薬品や日用品の購入機会も増えます。小規模店が総菜や連携商品を評価するときも、単品の利益だけでなく「その商品があることで来店回数が増えたか」という物差しを持つことが重要です。
スギHDとトライアルの提携の詳細は、流通ニュースの連載記事で報じられています。

小売大手がサプライチェーンを統合して競争力を高める動きについては、大手スーパーと地方スーパーの提携事例を分析した過去記事でも詳しく解説しています。
あわせてお読みください。

車社会の生活防衛と「ワンストップ競争」が突きつける小規模店の壁

大手が次々と生鮮や総菜の売場を拡張し、異業種同士で手を組む背景には、生活者の切実な「生活防衛意識」と「タイムパフォーマンス志向」があります。
藤井総務大臣の閣議後記者会見における家計調査結果の報告によると、2人以上の世帯の8月の消費支出は、1年前に比べ実質3.1%の減少となりました。物価高が続くなかで家計の財布の紐は固く締まっており、生活者は少しでも安く、かつ移動の手間をかけずに買い物を済ませたいという防衛行動を強めています。
特に自家用車での移動が前提となる地方のロードサイド商圏において、広大な駐車場を持ち、ディスカウント価格でナショナルブランド商品が揃い、処方薬の受け取りと夕食の買い出しが一度に終わる店舗の利便性は圧倒的です。仕事や家事に追われる共働き世帯や単身者にとって、何軒もの専門店を回る手間を省けるメリットは計り知れません。熊本市東区のウエルシアプラスが駐車場39台を確保しているのも、車での「ついで買い」を取り込む前提の店舗設計だからです。石川県をはじめとする北陸のような車社会の地域でも、同じ構図はすでに日常の風景になっています。
ここで地域の小さな食品スーパーや精肉・鮮魚店、個人経営の総菜店、飲食店のテイクアウト部門が直面するのが、「品揃えの広さ」と「価格」の勝負に巻き込まれる危機です。
中小企業診断士の視点から言えば、資本力に劣る小規模店が、大手のワンストップ店舗と同じ土俵で張り合うのは極めて危険です。豊富なSKU(商品数)を揃えて「なんでも買える店」を目指したり、大手ディスカウントストアに合わせた値下げ競争に突入したりすれば、粗利益率の低下と廃棄ロスの増加を招き、遠からず資金繰りに行き詰まります。
多品種・低価格・短時間決済を武器にする大手チェーンは「機能的利便性」を追求しています。一方で、どれだけシステム化やデータ連携が進んでも、大手の標準化されたオペレーションでは埋めきれない「地域の食卓の隙間」が必ず存在します。小規模店が生き残る道は、大手の便利さと正面衝突することではなく、ワンストップ店舗には真似のできない「わざわざ買いに行く理由」を再設計することにあります。
大手の「相互補完」を自社に翻訳する3つの商品・提携具体策

スギHDとトライアルの提携事例から小規模事業者が学ぶべき本質は、「自社の弱点を自前で克服しようとせず、他社の強みと交換する」という相互補完の考え方です。この発想を従業員20名以内の現場に落とし込み、明日から検討できる3つのアクションとして整理します。
1. 自前投資を避け、地域内で「強みの相互供給(ミニ提携)」を組む
総菜の売れ行きが良いからといって、小さな小売店が厨房設備に数百万円を投資したり、調理スタッフを雇い入れたりするのはリスクが大きすぎます。スギ薬局がトライアルから弁当の供給を受けたように、地域内の事業者同士で「強みの交換」を行う仕組みを構築します。
たとえば、総菜の調理能力はあるが立地や駐車場が弱く来店客数に悩む個人の居酒屋や料理店と、客数は多いが総菜の品揃えが弱い食料品店が連携する形態です。料理店は仕込み時間を活用して自慢の総菜や弁当を卸し、食料品店は調理設備を持たずに「地元飲食店の本格弁当」を店頭の目玉に据えることができます。
自社ですべてを抱え込まず、近隣のベーカリーや精肉店、和菓子店と連携して互いの売場に商品を置き合う「小さな包括提携」は、設備投資を最小限に抑えながら売場の魅力を高める有効な手段となります。
ミニ提携を始める前に必ず確認する5つのこと
ただし、総菜や弁当を他店に卸す取引は、思いつきで始めると法令や責任分担の面でつまずきやすい分野です。大手の提携は契約と品質管理の仕組みが整ったうえで動いています。小規模事業者同士で始める場合は、少なくとも次の5点を事前にすり合わせておくことをおすすめします。
1. 営業許可の区分:飲食店営業の許可は、基本的に店内で提供・その場で販売するためのものです。容器包装した総菜や弁当を他の店に卸して販売してもらう場合は、「そうざい製造業」などの製造業の許可が別に必要になるケースがあります。2021年6月施行の改正食品衛生法で許可区分が見直されているため、着手前に管轄の保健所へ相談してください。
2. 食品表示:他店で販売される容器包装の総菜には、食品表示法に基づく名称・原材料・アレルゲン・消費期限・製造者などの表示が求められます。ラベル作成の手間とコストを誰が負担するかも決めておきます。
3. 衛生管理:2021年6月からHACCPに沿った衛生管理が原則としてすべての食品等事業者に求められています。運搬時の温度管理、納品時刻、陳列可能時間を書面で決めておくと、事故時の原因切り分けがしやすくなります。
4. 買取か委託か:売れ残りのロスを仕入れ側(店)が負うのか、製造側が負うのかで、掛け率も発注量の考え方も変わります。最初の1〜2か月は少量の委託で売れ行きを確かめ、販売数量が読めてから買取に切り替える段階的な進め方が、双方の不安を抑えます。
5. 事故時の責任と保険:食中毒や異物混入が起きた場合の連絡体制、回収の判断者、生産物賠償責任保険(PL保険)の加入状況を確認しておきます。小さな取引ほど口約束になりがちですが、1枚の覚書を交わすだけで信頼関係が長持ちします。
これらは大手の提携でいえば「品質保証」や「取引契約」にあたる部分です。規模が小さくても、ここを最初に詰めておくことが、ミニ提携を一過性の企画で終わらせず継続的な販路にするための土台になります。
2. 「ショートタイムの買い物」に対抗する専門性と出来立ての目的買い設計
ウエルシアプラスのような新業態が提供している価値は「ショートタイムかつスマートな買い物」です。効率を最優先する顧客に対して、小規模店が対抗すべき軸は「専門性」と「出来立ての情緒的価値」です。
大手ドラッグストアの弁当や総菜は、セントラルキッチンやプロセスセンターでの大量調理、あるいは店内での最終加熱による均質化が前提となります。これに対して地域の専門店は、「注文を受けてから揚げるコロッケ」「本日の仕込み状況に合わせた日替わりの味付け」「旬の地元食材をどう調理すればよいかを対面で教える接客」といった、時間短縮とは逆方向の価値で勝負できます。
顧客が「ついで」に手に取るのではなく、「あの店のあの味でなければ困る」と感じて目的地として来店する商品群を、自社の売上構成の何割に据えるか。棚の品揃えを絞り込み、看板商品の鮮度や調理のライブ感を前面に出す売場づくりが求められます。
実務としては、まず直近3か月のレジデータから売上上位の商品を並べ、「近隣のドラッグストアやディスカウント店でも同等品が買えるもの」と「自店でしか買えないもの」に印を付けてみてください。前者の売上が大半を占めているなら、価格競争に巻き込まれやすい状態です。後者の看板商品を、売場の入口や目線の高さ、SNSでの告知といった一等地に移すことから始めると、追加投資をほとんどせずに目的買いの比率を高める第一歩になります。
3. 地域の食品メーカー・卸がドラッグストアの「即食需要」に食い込む視点
この変化は、地域の食品加工メーカーや卸業者にとっても新たな商機を含んでいます。ドラッグストア各社は現在、ナショナルブランドのNB商品だけでなく、地域色を出せる総菜原料や、店舗で簡単に提供できる半製品の調達先を探しています。
地元の調味料メーカーや水産・畜産加工業者は、従来の食品スーパーへの卸売ルートだけに依存するのではなく、食品強化を進めるドラッグストアや、そこに総菜を供給している製造ベンダーへの提案を検討する価値があります。
自社製品をそのまま店頭に並べてもらう形だけでなく、「ドラッグストアの弁当に使われるタレ」や「バックヤードで解凍・加熱するだけで提供できる味付け肉」といった、中食(なかしょく)産業の裏側を支える業務用・半加工品の供給ルートを開拓することが、価格叩きに巻き込まれない安定した販路の確保につながります。
提案の際は、商品の味だけでなく「店舗のバックヤードで何分で提供できるか」「専門の調理人がいなくても品質がぶれないか」「消費期限が何日あるか」といった、店舗オペレーション側の負担をどれだけ減らせるかを数字で示すことが重要です。ドラッグストアの売場担当者が最も気にするのは、限られた人員で総菜売場を回せるかどうかだからです。
診断士の視点:この戦略が「向く会社」と「向かない会社」の境界線

最後に、自社の方向性を決めるための判断基準を示します。ドラッグストアの食侵食に対して、どのような企業が連携戦略に向き、どのような企業は見直すべきでしょうか。
この取り組みが向いているのは、「特定の看板商品や独自の調理・加工技術を持っているが、単独での販路や集客力に限界を感じている小規模事業者」です。自社の看板商品をプラットフォームとなる地域の売場へ供給したり、他社の集客力を借りたりすることで、固定費を増やさずに売上を伸ばすことができます。
一方でこの戦略が向かないのは、「自社の強みが曖昧なまま、他社の商品を仕入れて売場を埋めることだけで急場をしのごうとしている小売店」です。仕入れ品を右から左へ流すだけの売場は、大手の圧倒的なバイイングパワーと価格訴求の前に埋没します。自社の存在意義となる「尖った強み」が1つもない状態で他社と提携を結んでも、単なる低粗利の代理販売に終わってしまいます。
自社が連携に向くかを判定する5つの質問
判断に迷う場合は、次の5つの質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。
1. お客様から「あの店の◯◯」と名指しで呼ばれる商品が1つ以上ありますか。
2. その商品は、近隣の大手チェーンで同等品が買えないものですか。
3. 現在の設備と人員のままで、生産量をあと2割増やす余力がありますか。
4. 自店の売場に、他社の商品を置いても自社の看板商品が埋もれない余白がありますか。
5. 前述の「ミニ提携を始める前に必ず確認する5つのこと」を、相手と書面で取り決める準備がありますか。
1と2が「はい」で3も「はい」なら、自社商品を他社の売場へ「供給する側」の提携に向いています。1と2が「はい」で4も「はい」なら、他社の強みを自店に「迎え入れる側」の提携も検討できます。1か2が「いいえ」の場合は、提携を急ぐ前に、まず看板商品づくりに時間を使うほうが成果につながりやすい段階です。5が「いいえ」の場合は、どちらのパターンでも、条件を整えてから小さく始めるのが安全です。
自社が磨くべきは、顧客がわざわざ足を運ぶ独自の専門性か、それとも他社と手を組むための供給能力か。巨大チェーンが食と健康のワンストップ化を加速させる今こそ、自社が立つべきポジションの線引きを明確にすることが事業の継続につながります。
本記事の出典
- [一次資料]国内公的統計「藤井総務大臣閣議後記者会見の概要」(2026年10月公開)
- 流通ニュース (小売)「ドラッグストアの食品戦略 第2回スギHD/トライアルと連携、総菜で客数アップ」(2026年10月公開)
- 流通ニュース (小売)「イオンウエルシア九州/熊本市東区に「ウエルシアプラス長嶺南店」10月29日オープン」(2026年10月公開)
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