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本日は「金融や経済」をテーマに、創業期や小規模企業の経営者が悩む「役員報酬」の決め方を取り上げます。

社会保険料を抑えようと自分の給料を極端に低く設定すると、生活費不足から会社の資金を引き出してしまい、銀行融資で嫌われる「役員貸付金」を生む原因になります。生活に必要な手取り額と会社の固定費・預金残高から逆算し、金融機関からの信用を守りながら手元資金を残す実務手順を整理します。あわせて、「生活費から見た必要額」と「会社が払える額」が食い違ったときの埋め方まで、仮の数字で試算します。
「社会保険料を抑えたいから役員報酬は低く」が招く3つの落とし穴
個人事業から法人成りしたばかりの会社や、小規模企業において、決算期や設立時に必ず議題に上がるのが「社長自身の給料(役員報酬)をいくらにするか」という問題です。このとき、社会保険料(健康保険・厚生年金)の負担を軽くしたいという理由から、役員報酬を月4.5万円や月10万円といった極端に低い金額に設定しようとするケースが少なくありません。
この点について、創業手帳が公開したインタビュー記事(前編・後編)の中で、ささき税理士公認会計士事務所代表で税理士・公認会計士の佐々木俊氏は、小さな会社の税務や法人化相談を数多く手がける立場から具体的な注意点を解説しています。佐々木氏の試算によると、役員報酬を月4.5万円にした場合、健康保険と厚生年金の保険料は会社負担と本人負担を合わせて月2.2万円ほどに収まります。
しかし、このときの本人の手取りは月3.4万円ほどにしかなりません。別の収入源がないにもかかわらず、会社からの報酬だけで暮らす経営者がこのような極端な低報酬を選ぶと、後から3つの大きな落とし穴に直面することになります。

生活費不足の穴埋めで発生する「役員貸付金」が銀行融資を遠ざける理由
1つ目の落とし穴は、生活費の不足を補うために会社の口座からお金を引き出してしまうことで発生する「役員貸付金」です。個人事業主の頃は事業の財布と個人の生活費の財布が同じでも問題になりませんでしたが、法人を設立すると、会社のお金と社長個人のお金は法律上明確に切り離されます。
社長が会社からお金を受け取る正当なルートは、毎月の役員報酬、立て替えた経費の精算、そして事前に届け出た役員賞与などに限られます。役員報酬だけでは暮らしが回らないからといって会社の口座から生活費を引き出すと、帳簿上は「会社が社長個人にお金を貸した」ことになり、貸借対照表の資産の部に「役員貸付金」として計上されます。
佐々木氏は、この役員貸付金が決算書に載ることで生じる問題を3点挙げています。
1点目は、最も深刻な金融機関の融資審査への悪影響です。地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などの金融機関から見ると、役員貸付金がある状態は「事業のために貸した資金が社長個人の生活費に流れている」と映ります。創業融資の追加や借り換えを相談した際にも真っ先に指摘される項目であり、金融機関が最も嫌う勘定科目のひとつです。
2点目は利息の問題です。会社は利益を出すために存在するため、社長相手であっても貸付金には利息を取る必要があり、無利息のままだと利息相当分が社長への給与とみなされることがあります。
3点目は、貸付そのものが否認されるリスクです。返済の当てがないまま残高が膨らめば、税務調査で「貸付ではなく実質的な賞与(給与)」と認定され、会社の経費(損金)にならないばかりか社長個人の所得税等まで増えるリスクがあります。毎月数万円の引き出しのつもりが、数年で数百万円に膨れ上がり、最終的にその返済分まで上乗せして役員報酬を引き上げざるを得なくなるケースも珍しくありません。
また、役員貸付金とは別に、低い役員報酬は経営者自身の将来の保障や個人の借入にも影を落とします。社会保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」は、将来の厚生年金の受給額や、病気・けがで働けなくなった際の傷病手当金、万一の際の遺族厚生年金の算定根拠そのものです。
加えて、社長個人が住宅ローンを組む際、金融機関は決算書や収入書類を3期分ほど確認し、役員報酬の額を「本人の返済能力」として審査します。会社に利益が出ていても、役員報酬を月10万円にしていれば「年収120万円」として審査されるため、住宅購入などのライフプランがある場合は2〜3年前から報酬水準を整えておく必要があります。
「利益が出たらボーナスで取ればいい」が通用しない役員賞与(事前確定届出給与)の壁
2つ目の落とし穴は、毎月の役員報酬は低く抑えておき、決算前に利益が出たら自分にボーナス(役員賞与)を出せばよいという考え方が税務上通用しない点です。
従業員への賞与とは異なり、役員に対する賞与は原則として会社の経費(損金)になりません。例外的に経費として認められるのは、支給する時期と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、その届出どおりに寸分違わず支給した「事前確定届出給与」だけです。
この届出には厳格な期限があります。原則として株主総会等で決議した日から1か月以内(会計期間の開始日から4か月を経過する日とどちらか早い方)、新設法人の場合は設立日から2か月以内が期限です。決算の2か月前になって「今期は儲かりそうだから賞与を出したい」と相談しても手遅れとなります。佐々木氏の試算では、届出をせずに100万円の役員賞与を支給した場合、法人の所得が500万円の会社では法人税等が年間で約23万円増える計算になります。
また、事前に届け出た金額どおりに支払えなかった場合(たとえば100万円と届け出て50万円しか支給しなかった場合など)も、支給した賞与の全額が経費として認められなくなります。売上の見通しが立ちにくい創業期や業績変動の大きい小規模企業にとって、期末の利益を予測して1年前の期首に賞与額を確定させるのは難易度が高い手法です。低い月額を「後からの賞与」で補うという設計は、創業期にはほぼ成り立たないと考えておくのが安全です。
個人事業時代の所得をもとに6月にやってくる「住民税」の時間差ショック
3つ目の落とし穴は、法人設立1年目と2年目の間で生じる「住民税」の徴収方法の違いと、前年所得に対する課税のタイムラグです。これは報酬の高低にかかわらず起きる話ですが、報酬を生活費ぎりぎりまで削っている人ほど吸収する余裕がなく、そのまま1つ目の役員貸付金に直結します。
役員報酬からは毎月の社会保険料と源泉所得税が差し引かれますが、住民税は「前年の所得」に対して翌年6月から翌々年5月にかけて課税される仕組みになっています。そのため、会社を設立した1年目は役員報酬から住民税が天引きされず、手取り額が一見すると多く残るように見えます。佐々木氏によると、月額30万円の役員報酬であれば、2年目の6月から天引きが始まる住民税は年間で約15万円、月額換算で約1.3万円となり、2年目の夏になって手取りが減ったことに驚く経営者が多いといいます。
さらに注意が必要なのが、独立前や法人成り前の所得に対する税金です。前職の会社員時代の給与所得や、個人事業主時代の事業所得が大きかった人ほど、法人を設立した年の6月に自宅へ届く個人住民税の納付書の金額が重くなります。個人事業からの法人化であれば、会社の健康保険に加入する前月までの国民健康保険料も前年の所得ベースで請求が重なります。1年目の役員報酬を決める際は、この「個人に届く前年分の税金・国保の支払い」と「2年目から始まる住民税天引き後の手取り」の両方を織り込んでおく必要があります。
役員報酬を低く設定してよい条件や失敗事例の詳細は、創業手帳の記事で確認できます。

逆に「役員報酬を高くしすぎる」と会社の資金繰りはどうなるか

ここまで低くしすぎるリスクを見てきましたが、反対に「前職の給料が月40万円だったから同じ額にしよう」「知り合いの社長が月50万円取っているから」といった理由で、創業初期や利益基盤が固まらないうちに役員報酬を高く設定しすぎることも、会社の資金繰りを直接圧迫します。
原則1年間変更できない「定期同額給与」のルールと、会社負担の社会保険料の重み
役員報酬が会社のキャッシュフローにとって重い制約となるのは、税務上「定期同額給与」として、事業年度の開始から3か月以内(設立1期目は設立日から3か月以内)に決定した金額を、原則として1年間変更できないルールがあるからです。
期の途中で「思ったより利益が出たから月20万円増額しよう」と変更した場合、上乗せした月20万円部分は会社の経費(損金)として認められず、会社から現金は出ていくのに法人税は減らないという不利な扱いになります。逆に期の途中で減額することが認められるのも、経営状況が著しく悪化して減額せざるを得ないといった客観的な事情がある場合に限られ、「一時的に資金繰りが苦しい」という程度では認められないとされています。
そして、経営者が最も見落としやすいのが「会社負担分の社会保険料」です。健康保険と厚生年金の保険料は、役員本人の給与から天引きされる約15%だけでなく、会社も同じくらい(合計で報酬の約3割)を負担します。
佐々木氏が挙げている東京都・40歳未満・扶養なしの概算例で見ると、手取りで月30万円を確保したい場合、額面の役員報酬は月37.9万円ほど必要になります。このとき、会社はさらに会社負担分の社会保険料を上乗せして、毎月約43万円の資金を用意しなければなりません。また、月額を10万円引き上げても本人の手取りは7万円前後しか増えないのに対し、会社側は社会保険料を含めて月10万〜12万円ほどの追加資金を用意する必要があります。
この「東京都・40歳未満」という前提には注意が必要です。健康保険料率は都道府県ごとに異なり、40歳以上になると介護保険料も加わります。さらに2026年4月分の保険料からは、子ども・子育て支援金が健康保険料とあわせて徴収されるようになりました。40代・50代で独立する方や地方で開業する方は、紹介した金額をそのまま当てはめず、お住まいの都道府県の保険料額表で計算し直してください。
なお、従業員の給与や年末調整に関わる控除額の見直しなど、今年度の税制改正の全体像については、当ブログの過去の記事でも詳しく整理しています。社内の給与実務とあわせて確認したい方は、次の記事も参考になります。

売上未達でも下げられない固定費化のリスクと「未払い役員報酬」の罠
もし売上が計画どおりに立たなかった場合でも、一度決めた役員報酬は固定費として毎月会社の預金を削り続けます。資金が足りなくなった現場でよく起きるのが、「今月は払えないので役員報酬を未払いにしておく」という処理です。
しかし、実際に報酬を支払っていない月であっても、社会保険料は最初に決めた報酬月額にもとづいて計算され、納付義務が発生します。さらに、決算書の負債の部に「未払役員報酬」が積み上がっている状態は、それだけ本業のキャッシュフローが回っていない証拠として金融機関の融資審査で厳しく見られます。「あとで払うつもりだった」という説明は通用しにくいため、未払いを発生させない水準に抑えることが大前提です。
額面ではなく「手取りと損益分岐点」から逆算する役員報酬の決め方

では、低くしすぎず高くしすぎない適切な役員報酬は、どのような順番で決めればよいのでしょうか。佐々木氏が取材の中で示しているアプローチは、売上や利益の見通しから始めるのではなく、まず経営者自身の生活費と会社の固定費・預金という確実な数字から逆算していく手順です。
ステップ1:個人の最低限の生活費から「必要な手取り額」を算出する
最初に行うのは、家賃や住宅ローン、食費、光熱費、保険料、子どもの教育費、最低限の貯蓄など、経営者個人の暮らしを回すために毎月いくら現金が必要かを「手取り額」で書き出すことです。地方で事業を営む場合であれば、自家用車の維持費や冬季の光熱費、前述した前年度分の住民税なども漏れなくリストアップします。
手取りの目標額が見えたら、そこから必要な「額面」を逆算します。ざっくりとした目安は「手取りは額面の約8割」です。前述の佐々木氏の試算(東京都・40歳未満・扶養なしの前提)では、額面月30万円なら手取りは月約24.1万円、手取りで月25万円欲しいなら額面は月31.4万円ほど、手取り月30万円なら額面は月37.9万円ほどとなります。手取りの目標を10万円上げるごとに、必要な額面は13万〜16万円ずつ増える計算です。
ステップ2:社会保険料の「会社負担」と「等級の境目」を確認する
必要な額面の目安が出たら、そこに会社負担分の社会保険料(約15%)を足し合わせ、「会社から毎月出ていく総額」を算出します。たとえば前職と同じ感覚で額面を月40万円に設定すると、会社は社会保険料を含めて毎月約46万円を用意することになります。ひとり社長や家族経営の小規模企業では、会社のお金も個人の手取りも一体として捉え、「会社と本人の合計でいくら外部(税金・社会保険料)に出ていくか」を確認することが欠かせません。
このとき実務上の知恵として押さえておきたいのが、社会保険料が決まる「標準報酬月額」の等級表の境目です。社会保険料は実際の支給額そのものではなく、段階的に区切られた等級表に当てはめて算出されます。佐々木氏の解説にあるとおり、たとえば月額31万円と月額30.9万円では等級が1つ異なり、わずか月額1,000円の違いで会社と本人を合わせた年間の社会保険料が7万円近く変わることがあります。月額を決定する際は、必ず全国健康保険協会(協会けんぽ)などの都道府県別の保険料額表を手元に置き、等級の境目のすぐ上に乗っていないかを点検してください。
ステップ3:会社の固定費・預金残高と照らし合わせ、期首から3か月以内に議事録を残す
ステップ1・2で出した「生活費から逆算した役員報酬+会社負担社保」を、今度は会社の支払い能力と照らし合わせます。事務所や店舗の家賃、通信費、外注費、そして創業融資などの借入金返済額といった、売上がゼロでも毎月確実に出ていく固定費を書き出します。
ここで重要な物差しとなるのが、現在の会社の預金残高です。佐々木氏は、売上がゼロのままでも固定費と役員報酬(会社負担社保含む)を「3〜6か月は払い続けられること」を目安として挙げています。さらに、契約済みなど見込みの固い売上だけで年間の売上を保守的に見積もり、固い売上から固定費を引いた残りで支払える役員報酬の上限を計算します。「生活費から逆算した金額」と「会社の固い売上・預金から払える金額」を比較し、低い方の金額を出発点にするのが安全な決め方です。
なお、固定費を賄うために最低限必要な売上高(損益分岐点)を把握する考え方については、当ブログの以下の記事でも詳しく解説しています。自社の採算ラインの計算方法を確認したい方はあわせてお読みください。

金額が決まったら、事業年度の開始(または設立日)から3か月以内に株主総会(合同会社の場合は社員の決定)を開き、決定した日付と月額を記載した議事録や同意書を作成して保管します。なお、会社設立時は設立後5日以内が期限となる社会保険の新規適用手続きで報酬月額を記入する必要があるため、実務上は設立時に決めておくのがスムーズです。一人社長の会社では議事録の作成を省略してしまいがちですが、将来の税務調査で「いつ決めたのか」を証明する重要な書類となります。
創業1年目の役員報酬の決め方や手取り逆算の詳細は、創業手帳の前編記事で紹介されています。

生活費と会社の支払い能力が食い違ったら:仮の数字で試算する
ここで1つ、手順どおりに進めると必ず突き当たる問題があります。「低い方の金額を出発点にする」と、生活費に足りない報酬になる場合があることです。不足を放置すれば、1つ目の落とし穴である役員貸付金に逆戻りします。
次の数字はすべて説明用の仮の設定です。原価がほとんどかからないサービス業で、社長が1人、手取りの目標は月25万円、固定費は月25万円、会社の預金は200万円、契約済みの固い売上は年600万円とします。
手取り月25万円には額面月31.4万円ほどが必要で、会社負担の社会保険料約15%を足すと、会社から出ていくのは月約36万円です。固定費と合わせると月61万円ですから、預金200万円で耐えられるのは約3.3か月となり、「3か月」の下限にかろうじて届く一方、「6か月」に必要な366万円には届きません。
一方、固い売上600万円から年間の固定費300万円を引くと、残りは300万円、月25万円です。これが社会保険料の会社負担込みで払える上限なので、額面にすると月22万円弱にとどまります。手取りの目安を8割とすれば月17.6万円ほどで、生活費に対して月7万円強、年間で90万円近くの不足が生じます。
この差を埋める方法は、役員貸付金以外に次の4つです。
・個人の貯蓄で賄う:不足額の年間合計を個人口座に確保し、会社の口座には手を付けない。この例なら年90万円弱が目安で、何年続けられるかも計算しておきます。
・固定費を下げる:月5万円下げられれば年60万円の余地が生まれ、額面では月4万円強を上乗せできます。
・固い売上を積み上げる:契約済みの売上を年100万円増やせれば、額面で月7万円ほどの上乗せが可能になり、この例の不足額はおおむね埋まります。
・法人化の時期や事業計画を見直す:上の3つでも埋まらなければ、そもそも今の売上で法人を維持できるかを問い直す段階です。個人事業のまま続ける判断も選択肢に入ります。
融資で得た運転資金を、報酬の原資として当てにする設計は避けてください。売上が増えて余裕ができた場合は、翌期の開始から3か月以内に増額できます。期中の減額はほぼ認められない一方で増額は翌期に回せばよいので、迷ったら控えめな金額から始めて翌期に引き上げる方が、資金繰りの面では安全です。
また、法人には赤字でも法人住民税の均等割(小規模な会社で多くの場合は年7万円ほど)がかかります。報酬を決める際は、この納税資金も預金の中に残しておきましょう。
どういう会社には「低報酬」が向き、どういう会社には向かないか|診断士の視点と点検リスト

最後に、小規模企業の財務相談や創業支援に関わる中小企業診断士の視点から、「役員報酬をゼロや極端な低額にする手法」が向く会社と向かない会社の線引きを整理しておきます。結論から言えば、これは経営者個人の「法人以外の収入・資産状況」と「今後の資金調達予定」という条件によって明確に分かれます。
役員報酬をゼロ、あるいは月4.5万円といった最低水準に設定する方法が向いているのは、次のような条件を満たす方に限られます。
・会社員として別の勤務先で給与と社会保険を維持したまま、副業として法人を立ち上げた方
・法人とは別に個人事業などの安定した収入源がある「二刀流」の方、または配偶者等の扶養に入れる方
・立ち上げ期から数年間、会社の口座に一切手を付けずに個人の十分な貯蓄だけで生活費と前年分の住民税等をすべて賄える方
ただし、それぞれに確認すべき点があります。勤務先と自社の両方から報酬を受ける場合は、社会保険で「二以上事業所勤務届」の手続きが必要になることがあり、勤務先の就業規則も確認が必要です。配偶者の扶養に入れるかどうかは、役員という立場をどう扱うかを含めて、加入先の健康保険に事前に確認してください。
また、報酬ゼロなら保険料もゼロになるわけではありません。無報酬の役員は通常、会社の健康保険と厚生年金に加入できないため、ほかの勤務先や扶養がなければ、国民健康保険料と国民年金保険料(月1.7万円台)を個人で払うことになります。月4.5万円の場合の社会保険料(会社負担と本人負担の合計で月2.2万円ほど)より、かえって重くなることもあります。
一方で、こうした別の収入源や十分な個人貯蓄がなく、「新しく作ったこの会社からの報酬だけで家族の生活を回していく」という専業の経営者には、極端な低報酬設定は向きません。地方の小規模企業では、個人事業時代の延長で事業用口座と生活費口座の区別が曖昧な「どんぶり勘定」になりやすい傾向がありますが、社保節約だけを狙った低報酬設定は、ほぼ確実に口座間の資金移動(役員貸付金)を誘発します。
地域の信用金庫や地方銀行と良好な関係を築き、運転資金や設備資金の融資を受けながら事業を育てていくのであれば、社会保険料の最小化よりも「決算書に役員貸付金や未払役員報酬を作らないこと」を最優先にすべきです。
来期の決算を迎える経営者や、これから法人を設立する方が、顧問税理士や地元の商工会議所・商工会の指導員と相談する際にそのまま使える5つの点検項目をまとめました。
1. 個人の年間キャッシュアウトの把握:毎月の生活費に加え、6月から支払う住民税や国民健康保険料(1年目)、住宅ローン・教育費を含めた「年間で必要な手取り総額」を書き出したか。
2. 会社負担を含めた総人件費の試算:希望する額面報酬に対し、会社負担分の社会保険料(約15%)を加えた「会社の毎月の支払総額」を、自社の都道府県の料率と年齢(40歳以上は介護保険料)で計算し、標準報酬月額の等級の境目を確認したか。
3. 預金耐久力の確認:売上がゼロと仮定しても、会社の現預金(借入金の返済原資を除く)で「固定費+役員報酬総額」を3〜6か月間支払い続けられる水準に収まっているか。
4. 融資審査のマイナス要因の排除:「この金額で、会社の口座に手を付けずに1年暮らせるか」を自問し、不足があれば貯蓄・固定費・固い売上のどれで埋めるかを決めたか。既存の役員貸付金がある場合は早期の返済計画を立てたか。
5. 法定手続きと記録の保存:期首(または設立日)から3か月以内に金額を決定し、株主総会議事録(または社員の同意書)を日付入りで作成・保管したか。
役員報酬は、一度決めれば1年間の会社の固定費と個人の税金・社会保険料が同時に確定する経営上の重要な意思決定です。他人の基準や目先の保険料節約に惑わされず、ご自身の家計と会社の損益分岐点の両面から無理のない金額を設計してみてください。税務の扱いは国税庁のタックスアンサー「役員に対する給与」、社会保険の扱いは日本年金機構と協会けんぽの案内で、最新の内容を確認することをおすすめします。
本記事の出典
創業手帳「社長の給料はいくらが正解?創業1年目の役員報酬の決め方を税理士が解説(前編)」(2026年10月公開)
創業手帳「役員報酬を低くしすぎると危険?税理士が教える創業期の失敗と注意点(後編)」(2026年10月公開)
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