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本日は「マーケティング」をテーマに、原材料費や物流費、人件費が上がるなかでの価格改定について解説します。お買い物アプリ利用者への調査では、回答者の4割超が「50円未満の値上げで、いつもの食品を買うのをやめるか別商品に変える」と答えました。
ただし、この数字をすべての消費者や商品に当てはめることはできません。調査の正しい読み方を確認したうえで、小規模店でも使いやすいまとめ買い、用途提案、粗利管理の実務を整理します。

回答者の4割超が「50円未満」と回答。ただし実際の客離れ率ではない
お買い物アプリ「カウシェ」を運営する株式会社カウシェが、アプリ利用者1,869人を対象に「値上げに関する調査」を実施しました。調査期間は2026年8月21日〜22日です。
いつも買っている食品が1品あたりいくら値上がりしたら「買うのをやめる・別の商品に変える」かという設問では、「50円〜99円」が32.3%で最多でした。続いて「30円〜49円」が26.9%、「100円以上」が18.4%です。「50円未満」と答えた人の合計は42.7%、「100円未満」まで含めると75.0%で、「金額にかかわらず買い続ける」は6.6%でした。
ただし、これは回答者が申告した「切り替えを考える値上げ幅」であり、実際の購買履歴から求めた離反率ではありません。50円上がったら42.7%が必ず離れる、という意味ではない点に注意が必要です。
また、元の商品価格が示されていないため、100円の商品が50円上がる場合と、2,000円の商品が50円上がる場合を区別できません。対象もカウシェ利用者に限られ、一般消費者全体を代表する調査ではありません。「50円の壁」は一律の値上げ基準ではなく、価格への敏感さを示す参考値として読むのが妥当です。
同調査では、値上げによる家計負担を「とても感じている」が82.6%、「多少感じている」が16.0%で、合計98.6%でした。少なくとも、この回答者層では値上げへの警戒感が非常に強いことは読み取れます。
調査結果の詳細は、ネットショップ担当者フォーラムの記事で確認できます。

2026年9月は年内最大の食品値上げラッシュ

帝国データバンクが2026年8月31日に公表した「食品主要195社」価格改定動向調査によると、2026年9月の飲食料品の値上げは4,923品目で、単月では2026年最多となる見通しです。値上げ1回あたりの平均値上げ率は11%。1〜11月の判明分は累計1万9,083品目で、年間では2年連続の2万品目超えが見込まれています。
なお、この品目数には、同じ商品が年内に複数回値上げされた場合の重複や、価格を据え置いて内容量を減らす実質値上げも含まれます。単純な「異なる商品数」ではありません。
値上げが同時期に集中すると、自社だけが目立ちにくい反面、消費者は多くの商品を比較し直します。だからこそ「周囲も上げるから大丈夫」と考えず、商品ごとの利益と顧客の選び方を確認する必要があります。
中小企業の価格転嫁率は54.2%
中小企業庁が2026年6月26日に公表した「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」では、受注側中小企業の「価格交渉が行われた」割合は90.7%、コスト全体の価格転嫁率は54.2%でした。コスト別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%、官公需は48.4%です。
回答企業全体の平均では、コスト上昇分の半分近くを価格に反映できていません。また、1次請けの価格転嫁率55.2%に対し、4次請け以上は45.5%で、取引階層が深いほど転嫁しにくい傾向も続いています。
価格改定を4月と10月に行う企業が比較的多いことから、中小企業庁はその前月の3月と9月を「価格交渉促進月間」としています。BtoCの売り場改善だけでなく、BtoBの仕入条件や自社の納入価格も同時に見直す時期です。
値上げで増えた行動の1位は「まとめ買い・特売」

カウシェの調査で、値上げ後に変えた行動の1位は「まとめ買い・特売を意識するようになった」(61.4%)でした。続いて「賞味期限間近品などを買うようになった」(41.5%)、「規格外野菜・訳あり品を買うようになった」(41.4%)、「外食を減らした」(36.1%)です。
値上げ対策として頼りにしてきた食品は、「特売品・見切り品」(62.1%)、「もやし・豆腐などの低価格食材」(47.7%)、「プライベートブランド商品」(47.1%)、「規格外野菜・訳あり品」(43.4%)が上位でした。
一方、値上げが続いてもお金をかけているものは、「お米などの主食」(53.7%)、「家族の好きな食べ物」(46.1%)、「コーヒー・お茶などの嗜好品」(41.4%)です。すべてを一律に節約するのではなく、必要なものや好きなものは残し、それ以外を見直す姿が見えます。
小規模事業者にとって重要なのは、安さだけで比べられる商品から、「この店で買う理由がある商品」へ近づけることです。味、鮮度、手作り、地域性、使いやすさなど、価格以外の選択理由を具体的に伝える必要があります。
若年層の購買行動と、SNSと検索を往復する導線については、次の記事で詳しく解説しています。

小規模事業者が安売り競争を避ける具体策

人口密度や商圏人口が大都市圏ほど大きくない北陸では、大手量販店と同じ薄利多売を目指すのは危険です。地域密着型の食品加工業、小売店、飲食店は、まとめ買い需要を取り込みながらも、粗利を守る設計が必要です。
値上げ幅は「50円」ではなく商品別採算から決める
値上げ幅は調査の50円に合わせるのではなく、商品ごとの原価、必要な粗利、競合価格、顧客の反応から決めます。全商品を一律に上げる必要もありません。
他店と比較されやすい定番商品は改定を抑え、自社製造品、季節品、詰め合わせなど比較されにくい商品で利益を確保する方法があります。反対に、原価上昇が大きい商品を据え置くと赤字になるなら、販売継続そのものを見直す必要があります。
小刻みな値上げと一度にまとめた値上げのどちらが適切かも、商品と購買頻度によって異なります。変更回数だけで決めず、改定後の販売数量、客数、客単価、粗利額、再購入率を確認してください。内容量を減らす場合も、顧客の信頼を損なわないよう変更点を明示します。
まとめ買いで「割安感」と粗利額を両立させる
「3個まとめると1個あたりがお得」「定番品と新商品の食べ比べセット」といった束ね売りは、まとめ買いを意識する顧客に分かりやすい提案です。北陸の和洋菓子店や惣菜店なら、「家族で楽しむ週末セット」や「地場野菜を使った3種セット」などが考えられます。
ただし、値引き率は必ず粗利から逆算します。売価100円、原価40円の商品の例で確認します。
・単品1個:売上100円、原価40円、粗利60円、粗利率60.0%
・3個セットを10%引き:売上270円、原価120円、粗利150円、粗利率55.6%
1回の取引で見ると、粗利率は60.0%から55.6%に下がりますが、粗利額は60円から150円に増えます。ただし、これは「1回の取引」の比較です。まとめ買いが次回購入の前倒しになると、その後の来店回数が減る可能性があります。販売数量だけでなく、一定期間の粗利総額と再購入率まで確認して判断します。
値引きを埋めるための必要販売数量を計算する
値引き前と同じ粗利額を確保するために必要な販売数量は、次の式で求められます。
必要販売数量の倍率=元の粗利率 ÷(元の粗利率 − 値引き率)
粗利率60%の商品を10%引きにすると、60÷(60−10)=1.2倍です。全体の販売数量が20%以上増えなければ、値引き前と同じ粗利額には届きません。同じ条件なら、15%引きは1.33倍、20%引きは1.5倍が必要です。
粗利率40%の商品を20%引きにすると必要数量は2倍です。原価率が高い商品ほど、安易な値引きは利益を大きく削ります。なお、値引き率が元の粗利率以上になると、数量を増やしても粗利は確保できません。
「手づくり冷凍」やストック需要に用途提案で応える
調査の自由回答には、肉や魚をまとめ買いして冷凍する、冷凍食品を減らして手作りした料理を冷凍するといった声がありました。
製造直売所や精肉・鮮魚店なら、「冷凍しても味が落ちにくい切り方」「解凍後すぐ調理できる下味付き商品」「1回分ずつの小分け包装」などを提案できます。食材だけでなく、保存や調理の手間を減らす価値を加える方法です。
値引きをせず、加工や利便性に対する対価を価格へ乗せられる点も利点です。ただし、包装費や加工時間まで原価に含め、実際に粗利が増えるかを確認してください。
訳あり品と通常商品を明確に分ける
賞味期限間近品や規格外品への需要はありますが、通常棚で常に値引きすると「待てば安くなる店」と覚えられ、定価販売が難しくなります。
「フードロス削減」「本日製造分の入れ替え」など値引き理由を示し、場所、時間、対象商品のルールを固定します。通常価格の商品と分けることで、値引きを例外として伝えやすくなります。
小規模店舗が新しい商品構成や販売方法を小さく試す考え方については、次の記事も参考になります。

値上げに向く商品・向かない商品を分ける
値上げやまとめ買い提案がしやすいのは、自社製造品や限定品など、他店と単純比較されにくく、味・鮮度・手作り・地域性を説明できる商品です。
一方、どこでも同じ型番やパッケージで買える商品は、価格差がそのまま他店への流出につながりやすくなります。この場合は、配達、接客、アフターフォロー、他商品との組み合わせなど、サービス面の価値を加える必要があります。
次の5項目を商品ごとに点検してください。
・自社でしか買えない理由を一言で説明できるか
・価格改定前後の販売数量や再購入率を比較できるか
・商品ごとの原価と粗利率を把握しているか
・値上げの理由を事実に基づいて説明できるか
・店頭、Web、SNS、スタッフの説明が一致しているか
「はい」の数だけで値上げの可否を決めるものではありません。不足している項目を先に整えるための確認表です。とくに商品別原価が分からなければ、まとめ買いセットが利益を生むか判断できません。
値上げ理由だけでなく、守る価値を伝える
「原材料費や光熱費の高騰に伴い、やむを得ず値上げします」だけでは、顧客にとっての意味が伝わりません。価格改定の理由を正直に示したうえで、品質、安全性、利便性の何を守るための改定なのかを事実に基づいて伝えます。
ビフォー:
「原材料費・光熱費高騰のため、誠に勝手ながら〇月〇日より価格を改定させていただきます」
アフター:
「原材料費や包装費の上昇を受け、〇月〇日から価格を改定します。これまでと同じ原材料と製法を守り、安心してお選びいただける商品をお届けするための見直しです。あわせて、1個あたりがお得になるまとめ買いセットをご用意します」
密封包装への変更や下味付きへの改良など、顧客の利点を加えた場合は、それも具体的に知らせます。実施していない改良を値上げ理由にしてはいけません。
告知は改定当日ではなく、既存客が事前に気づけるよう店頭、Web、SNSで早めに行います。スタッフにも説明内容を共有し、問い合わせへの回答をそろえておきます。
まとめ:「50円」ではなく、自社の数字で決める

カウシェの調査は、値上げに敏感な回答者が多いことを示しています。しかし、50円はすべての商品に共通する壁ではなく、42.7%も実際の客離れ率ではありません。
中小企業が先に行うべきことは、商品別の原価と粗利率を把握し、値上げする商品と据え置く商品を分けることです。そのうえで、まとめ買い、保存しやすい規格、調理を助ける用途提案を小さく試し、販売数量だけでなく粗利総額と再購入率で評価します。
さらに、9月の価格交渉促進月間を使い、仕入コストの根拠を確認するとともに、自社の納入価格へコスト上昇を反映する交渉も進めます。売り場の工夫だけで吸収せず、取引条件そのものを見直すことも必要です。
値上げは価格表を書き換えるだけの作業ではありません。自社商品が顧客に選ばれる理由を確認し、利益を残しながらその価値を伝え直す機会として取り組みましょう。
本記事の出典
ネットショップ担当者フォーラム「4割超が『50円未満の値上げで買う商品を変える』、値上げで変えたこと1位『まとめ買い・特売を意識するようになった』」(2026年9月1日公開)
中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日公表)
帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査―2026年9月(2026年8月31日公表)
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