(5-1)個人が保有する暗号資産に対する所得課税の見直し ア.問題の所在  日本において web3 ビジネスが発展するための税制上の重大な障害として、法人税の期末時価評価課税の問題と個人が保有する暗号資産に対する所得課税の問題が存在した。そのうち、法人税の期末時価評価課税の問題については、令和 5 年度及び令和 6 年度税制改正によって見直しがされ、自己発行及び他社発行の暗号資産につき期末時価評価課税の対象から除外される措置が講じられたことによって一定の解決が得られた。一方で、個人が保有する暗号資産に対する所得課税の問題については進展が見られず、引き続き検討が必要な状況にある。  日本の個人の暗号資産取引に関する課税上の取扱いでは、暗号資産取引から生じた所得は雑所得に該当するとして最高税率(所得税と住民税を合わせて)55%で課税されるなど、諸外国に比べて厳しい扱いとなっており、その結果、納税者の海外流出が増加しているとの指摘がある。なお、この点に関連して、現在、暗号資産の現物を原資産とした ETF が海外で導入されており、仮に当該 ETF が国内で流通したり、国内でも暗号資産を原資産とした ETF が組成されたりした場合で、これらの取引から生じた所得が分離課税の対象とされるのであれば、暗号資産の現物取引が上記のとおり総合課税の対象にされることと税制上不均衡が生じることになる。 その結果、国内における暗号資産の流動性が著しく低下し、web3 ビジネスの発展を阻害するおそれがある。そのような事態を回避するためにも、暗号資産を原資産とした ETF について分離課税の対象とするのであれば、暗号資産取引から生じた所得も同様に分離課税の対象とすべき必要性はなお高いものと考えられる(なお、暗号資産ETF については、下記3(5-2)を参照されたい。)。  また現行の税制においては、保有する暗号資産を円やドル等の法定通貨と交換した場合だけでなく、他の暗号資産と交換した場合にも、暗号資産を譲渡したものとして、暗号資産の譲渡に係る損益に対して所得税が課されることになる。しかしながら、暗号資産同士の交換時には法定通貨を取得することはないため、納税者による税務申告促進の妨げになっている。  NFT ホワイトペーパーにおいて、利用者に対する所得課税については、①個人が行う暗号資産の取引により生じた損益について 20%の税率による申告分離課税の対象とすること等を含めた暗号資産の課税のあり方について検討すべき旨の提言を行った。さらに web3 ホワイトペーパーにおいては、①に加えて、②暗号資産同士の交換による損益を非課税とする提言を行ったところである。  さらには、上記の総合課税と分離課税のいずれを適用すべきかという問題に加えて、web3 に関しては現在様々なユースケースが生まれており、それらを税制上一律に取り扱うのが適切なのかという問題がある。暗号資産の性質や用途によっては、税制上の優遇措置を設ける等、原則的な取扱いとは異なる取扱いをすべきものも存在すると考えられる。その最たる例が暗号資産による寄附であり、一定の税制上の優遇措置を認めるべきではないかが問題になる。この点については下記(5-2)において別途述べる。 イ.提言  個人が保有する暗号資産に対する課税については、①暗号資産の取引により生じた損益について 20%の税率による申告分離課税の対象とすること、②暗号資産にかかる損失の所得金額からの繰越控除(翌年以降 3 年間)を認めること、③暗号資産デリバティブ取引についても、同様に申告分離課税の対象にすることが検討されるべきである。  また、暗号資産取引に関する損益は、暗号資産同士を交換したタイミングでは課税せず、保有する暗号資産を法定通貨に交換した時点でまとめて課税対象とすることが検討されるべきである。  上記の検討、特に申告分離課税に関する提言については、有価証券等と同様に、暗号資産を国民の投資対象となるべき金融資産として取り扱うかが問題になる。この点は、暗号資産に関する法規制の在り方や暗号資産の性質という観点から、他の資産により生じる所得と異なる課税上の取扱いをすることが正当化されるかを検討する必要がある。 まず、現行の暗号資産に関する法規制の在り方を踏まえ、申告分離課税の対象にすることが妥当であるか、法規制に一定の修正を加えるべき部分があるとすればどの部分か、さらにはそのような修正を加えてまでも申告分離課税を採用すべきかを検討していく必要がある。 加えて、暗号資産取引について一律に申告分離課税の対象にすることが考えられる一方で、暗号資産については多種多様な性質のものが存在することを踏まえて、一定の種類の暗号資産についてのみ申告分離課税としての取扱いを認めるべきか否かを検討することも考えられる。  さらには、上記の検討にあたっては、諸外国における個人の暗号資産取引に関する課税上の取扱いとの比較検討を行う必要もある。また、上記の取扱いによって納税者の税務申告や国家の税収にどのような影響を与えるか、上記取扱いを採ることに対して広く国民の理解を得られるかについても検討する必要がある。  上記の提言に加えて、暗号資産による寄附のように、暗号資産の性質や用途などを考慮して、一定の税制優遇措置を設けるなど通常とは異なる課税上の取扱いを認めるべきものが存在する場合には、速やかに検討の上、一定の措置を講じていくべきである。 (5-2)暗号資産による寄附の課税上の取扱いの明確化及び見直し ア.問題の所在  個人や法人が暗号資産を保有している場合において、国、地方公共団体、公益法人や NPO 法人等に対して当該暗号資産を寄附したいという要請が相当程度存在する。暗号資産による寄附は、クレジットカード決済による寄附に比べて手数料が安価であり、また、銀行振込みによる寄附よりも簡易に行うことが可能であるため、大規模災害時の緊急支援などにも迅速かつ効果的に寄附を行うことが可能である。 実際、米国においては 2021 年の時点で具体的な寄附額が公表されているプラットフォームだけでも慈善団体への暗号資産寄附の規模が 4 億ドルになっているなど、暗号資産による寄附が広く普及してきている。  しかしながら、日本の税制上、暗号資産による寄附が特定寄附金に該当するかが明確にされていないため、個人が暗号資産を国、地方公共団体や公益法人等に寄附した場合に寄附金控除の適用を受けられるか、また、法人が暗号資産を国、地方公共団体や公益法人等に寄附した場合に特別損金算入限度額に基づく損金算入の対象になりうるかが必ずしも明確ではなく、その結果、暗号資産による寄附を阻害する要因になっている。  加えて、個人が不動産や土地を国、地方公共団体や公益法人等に寄附する場合には、当該財産の含み益に対するみなし譲渡所得を非課税とする特例(租税特別措置法 40 条)が存在するものの、暗号資産についてはそのような特例が存在しないため、暗号資産に含み益が生じている場合、寄附によって当該含み益が課税対象に含まれてしまうことから、暗号資産による寄附が阻害されている。  このように、税制上の理由により暗号資産による寄附が阻害されているため、このような障害を取り除き、暗号資産が公益目的のために有効に活用されることを促進する必要がある。 イ.提言  暗号資産によって寄附が行われた場合、個人が寄附を行った場合には所得税法上の寄附金控除の適用対象になりうること、法人が寄附を行った場合には特別損金算入限度額に基づく損金算入の対象になりうることを、通達やタックスアンサー等により公表することで明確化すべきである。  現行の所得税法においては、個人が暗号資産を寄附した場合、暗号資産の時価を総収入金額に算入しなければならないとされているところ、租税特別措置法 40 条における現物寄附のみなし譲渡所得税等の非課税特例と同様の措置を暗号資産にも適用し、暗号資産の寄附について非課税とする措置を講ずべきである。